第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
中に着ている白いシャツだけになった杏寿郎に、ひなたは上着を返そうとした。
「ダメだよ、煉獄さん着てなきゃ…」
「濡れているが、雨は凌げる(しのげる)。遠慮するな」
ひなたを軽々と背負うと歩き出す。
雨の激しく降り続いている山路は、はっきり言って悪路としか言いようがない。お天気の良い昼間でも、つまづきそうになるのに、雷の中を歩く師範の足取りは速い。
ひなたを背負っているので歩いてはいるが、めちゃくちゃ速かった。
師範の背中に背負われたひなたは、鱗滝さんの家までは結構な距離がある事を考えていた。
「煉獄さん。鱗滝さんの所まで、遠いね」
「ああ。少し休憩しよう」
杏寿郎は途中で道を曲がり、山の中をずんずん歩いて行く。暫くして辿り着いたのは、昼間連れて来てくれたあの庵だった。
杏寿郎は庵の戸口を開けると、ひなたを背負ったまま入った。
「ひなた、下ろすぞ。…座って」
「うん」
ひなたを下ろすと杏寿郎は入り口にある薪を探っている。
「ひなた、濡れた服は脱いだ方が良いだろう。乾かすから、全部脱いでくれ」
「えっ⁈ 」
ひなたが聞こえなかったと思ったのか、囲炉裏に薪をくべて火をつけながら、杏寿郎は座っているひなたの方を見て言った。
「今、着ている、服を全部脱いでくれ。風邪をひくといけない」
「…聞こえています…」
テキパキと、素早く炎を起こしているその姿は、キャンプの上手い白シャツの男性みたいだ…とぼんやり思っていたひなたは、杏寿郎の言葉に頬が染まる。
薄暗い部屋の中、煉獄さんが点けた火が小さく燃え始め、徐々に暖かな色の炎に育っていく。
「寒いぞ、早く」
そう言われても『はい!すっぽんぽんになります』とはひなたには言える筈もなく、薪を調整して炎の具合を見ている煉獄さんを、呆然と見る事しかできない…。
「…っッハックションっ! 」
クシャミが出た。濡れ過ぎた服がピタリと肌に張り付いて、冷たかった。