第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
唇に重なった冷たい唇の感触。それが煉獄さんの唇だと気がついた時には、ひなたの苦しみが薄れていた。
師範が口移しで、ひなたに酸素を送ってくれていた。
冷たい水の中で、煉獄さんの唇がひなたに強く押し付けられ、数秒のうちにひなたは全身の緊張が解けて、自ら呼吸できるまでに回復した。
「もう大丈夫だ。冷たい水に深く沈んだから、身体が驚いたんだ。ゆっくりと呼吸してみるといい…いい子だ」
ひなたは煉獄さんに掴まったまま、ゆっくりと呼吸をする。さっきは息が出来なくて、パニックに陥ってしまった。煉獄さんがすぐに助けてくれたから、怖さから解放された…。
「…ハァ…ハァ…迷惑かけてごめんね…」
「構わない。動けるか?水から出よう」
煉獄さんに引かれて滝壺から出た。岩場に上がり腰を下ろすと、さっき、煉獄さんの唇が冷たかった事を思い出す。
「ひなた。濡れたままだと風邪をひいてしまう。急いで戻ろう」
杏寿郎はひなたの濡れた髪に触れ、心配そうに言った。
空模様は酷く崩れ、雨足が強くなっている。まだ夕暮れ前だというのに暗く、雷鳴も轟いていた。
「煉獄さんも寒い?私がやるって言ったから…」
無意識に、煉獄さんの頬に手の平で触れていた。煉獄さんのすべすべとした肌は、唇と同様、とても冷えていて、煉獄さんがずっと水の中にいてひなたの事をずっと庇っていてくれた事を知らせる。
「…ごめんね…すごく冷えてるね…」
泣きそうになってしまった。煉獄さんが助けてくれなかったら、滝壺で溺れてしまっていたと思う。煉獄さんの事も危険に晒してしまったという思いで悲しくなった。
「…そんな事、継子が気にするな…」
煉獄さんの艶のある綺麗な声が優しく響く。
「さぁ、戻ろう。立って」
先に立ち上がった杏寿郎が、ひなたを支えてくれたので立ちあがろうとしたら、膝が震えてしまって立てなかった。
「あれっ、脚に力が入らない…」
ふらふらっとしたら、煉獄さんの腕に庇われた。
「ひなた、背中に乗れ」
杏寿郎は隊服の上着を脱ぐと、ひなたに着せる。