第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「お願い。煉獄さん!一度だけ、やったら帰ります!お願いします」
剣士見習いの時、納得できなくて何度も何度も繰り返し練習した日々があった事を、杏寿郎も覚えている。
ひなたの気持ちを汲むことにした。
「分かった。一度だけだぞ」
「はい!ありがとうございます」
煉獄さんとひなたは、お昼に飛んだ崖の上までやって来た。ここまで来るのにも時間がかかる。小さな雨粒がポツリと落ち始めていた。
「師範みたいに、一番上から、飛びます」
やめておけ、とは師範は言わなかった。
ヒュウウ〜ッ!遥か下方から、風が吹き上がってきていた。ひなたの喉がゴクリ、と鳴った。昼前、飛んだ時よりもずっと高い…。分かってはいたが、断崖から見下ろすと恐怖で縮み上がりそうだ。
…今日、ここを飛べたら、煉獄さんを助けられるような隊士になれる。
そんな賭けが脳裏によぎる。自分の中には選択肢はなかった。
師範は滝壺に降りて、水の中でひなたを待っている。
水は、身を切る程に冷たい筈だった。そんな水の中で待ってくれている師範に申し訳ないので、時間はかけられない。
「全集中の呼吸…」
すぅぅ〜!肺に入れる空気が恐怖で少なくなっちゃうけど、今だ!跳べ!
空中に駆け出すようにして、崖から飛び込んだ。
「…ひぃぃ〜っ!! 」
長い!落ちていく距離が長っ!!気を失いそうになったが、なんとか意識を保ち、水面に着水しようと呼吸を整えて立て直そう!
でも、焦っていて上手くできない。慌てながらも、叩きつけられないよう、体勢を整える。
…頑張れ…自分の為に、煉獄さんの為に…!
直後、着水し沈み込んでいく。深い滝壺の下まで落ちて行く…。昼前に飛んだ時よりも高い位置からの飛び込みだったため、どこまでも沈んで浮き上がる事が出来なかった。
…息…。息が持たない…苦しくて怖い!!
そう思った瞬間、強い力で引っ張られる。落ちて行く身体を持ち上げて、滝壺の上へ上へ。明るい方へと浮き上がっていた。
…師範だ。師範が助けてくれた。
ひなたの腰に腕を回して、あっという間に水面まで泳いで上がっていた。
「…っ!!っアグっ!! 」
吸い込もうとするも吸い方を忘れたように息が出来ない。
もがいた時、唇が重なった。