第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「師範」
「なんだ⁈ 」
呼吸について、柱から直接コツを習えるという、有り難い機会である事は分かっている。でも…今のひなたには難しい。
呼吸は奥が深い。一つ、できるようになっても、これが全てではなかった。
「私…呼吸って一つだと思ってたの」
向かい合っての教習の中で、ぽつり呟くひなたの方へ、杏寿郎が少し歩み寄る。声が小さいので、近づいて聞くためだ。
「どうした。疑問があるなら全部言ってみろ」
師範の隊服がすぐ目の前にある。少しチャコールがかったような、艶のある良い生地だ。煉獄さんの体格が非常に良いのと、身体に合わせて仕立てられているので、隊服は煉獄さんの身体の動きに合わせて沿うように馴染んだ。
隊服姿の師範はえらく魅力的に見えた。
「全集中の呼吸、常中があるなんて、難しいよ」
煉獄さんに近づくには、もっともっと、頑張らないといけない。ちょっと焦っちゃう…。
「呼吸ができたら、何でもできるって思っていたの」
煉獄さんが顔を見ているから、ひなたは目を伏せた。
師範の小さな呼吸の音がした。と、思ったら師範の大きな笑い声がした。
「ははは!そうだ!一つ分かったら、次がある。そうやって自分のものにしていくんだ。悩むのは呼吸を理解し始めた証拠だ」
身を反らすようにして明朗な笑い方をする。目が細くなる程の笑顔は、まるでひなたに何も心配するなと言ってくれているようだ。
「ひなた。焦らなくてもいい」
ひなたを真っ直ぐに見ている。
「だって…」
ひなたが呟いた瞬間、空がピカッと光った。稲光りだ。
「崩れてきたな…。ひなた、そろそろ帰る支度をしよう」
山の荒れやすい天候を読み、帰ろうとする師範の腕を握った。
「師範、もう一度、今度は高い場所から飛びたいの。呼吸が出来てるか、ちゃんと自分で確かめておきたいの」
「だが、もうじき大雨が来るぞ。俺は良いがひなたは慣れてないだろう。今は無理をするな」
師範としての言葉は聞くべきだって、分かっているけど、ひなたはどうしても飛びたかった。さっきの呼吸が、たまたまなんじゃないかって、不安だったからだ。