第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「僕も呼吸が使えた気がします! 」
「ほんと⁈千寿郎君、凄いじゃない♡ 」
濡れた服を岩陰で着替えて、鱗滝の用意したお弁当を食べる。
夏の山、狭霧山は標高が高いせいか、照り付ける日光はあるものの、木陰は冷やかな冷風も感じる。
さっき、滝壺で濡れた身体は、あっという間に乾いてしまった。断崖から飛び込むという、普段からはかけ離れた体験が新鮮だったのか、千寿郎はその後も饒舌で、お昼ご飯を食べながらも興奮した様子だ。
今も、お握りを両手に握って、楽しそうに話す姿は、無邪気な子供そのままだった。日頃の千寿郎は、そんな事はしない。
「千寿郎、とても良い飛び込みだった」
兄としても嬉しかったのか、杏寿郎は明るく言った。
「本当ですか⁈お昼を食べ終わったら、もう一度やりたいです。良いですか? 」
「構わんが、飛ぶ前に兄に申告してからやるようにな! 」
さっきは、いきなり飛んで、煉獄さんを驚かせていたからな。
ひなたは仲のよい兄弟を見ていて微笑ましくなった。
…煉獄さん、千寿郎君の事を凄く大切に思ってる…。
「千寿郎は早くから起きてワシの手伝いまでしたから、無理はせんようにな」
「はい!鱗滝さん」
鱗滝が手を伸ばして取ったのは、千寿郎の握ったお握りである。それに気が付いた千寿郎は気恥ずかしくも嬉しくなっていた。
自分は鱗滝さんの事も手伝う事ができたし、崖から飛び込む勇気もあった。ひなたの修行仲間でいられること、兄上と行動を共にできる事。
自分にもできる事が沢山あって、家にいる時に父からは無力だと言われ続けていた千寿郎にとって、狭霧山での毎日は楽しく、新しい体験づくしだった。
「鱗滝さんと千寿郎君の作ってくれたご飯、美味しい! 」
ひなたも2個目のお握りに手を伸ばす。
「美味いな!この中身、何とも言えんな…うまいっ!! 」
空気が薄いはずなのに、めちゃくちゃ肺活量の多そうな師範が、さっきから美味いを連発している。
「煉獄さん、美味しいよね」
「ああ!美味いな」
…煉獄さん、私の作ったお握りを食べた時より嬉しそうにしてる…。
ひなたの握ったお握りを食べた時とは違う反応を見せる杏寿郎を、じっと見ていて思った。