第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「こんな場所があったの…? 」
山の中に、隠れるようにひっそりと佇む小さな庵。鱗滝の物だろうか、ひなたの目から見ると、まるで小さな別荘のようで素敵だった。
「ここは、鱗滝さんが個人的に造った庵だ」
「何するお家? 」
無邪気な様子で尋ねるひなたに、杏寿郎の耳が僅かに染まる。
「山で道に迷った人の為に用意したと聞いたぞ」
「鱗滝さん優しいね!狭霧山って広くて深いから」
「そうだな! 」
杏寿郎は庵の戸を開けた。戸口を開けると全てが見通せる程にコンパクトな間取りだが、古き良き古民家な感じが素敵だ。
一晩、いや数日の滞在でもできる程、生活用品もあるように見える。
杏寿郎は家の中に入って見回し、簡素な台所や、囲炉裏などを確認する。
「ひなたにも教えておきたかったんだ。俺とはぐれてしまう事はないと思うが万が一、一人になった時には、ここに来て朝が来るまで、助けが来るまで待つように。いいな」
ひなたを気遣ってくれているのを感じた。頷いて答える。
「うん!もしも皆と…煉獄さんとはぐれてしまうような事があったら、山の中を彷徨わないでここに来るね。迎えに来てくれる? 」
すぐ側に立っている杏寿郎に尋ねてみた。今は一緒にいるから、なかなか想像もしにくいけど、もしもの時の避難先を教えてくれてる。
それだけ、危ない事をしているとも言えるのだ。
杏寿郎はしっかりと頷いた。
「君の事も千寿郎の事も、俺は守る」
真面目で責任感の強い人特有の、誠実さが伝わってくる物言いだった。
ひなたが常日頃感じている、杏寿郎に対する信頼の源だといえる。杏寿郎は強くて、柱で、鬼殺隊を知ったばかりのひなたからしたら、手の届かないポジションに存在する人にも関わらず、杏寿郎はいつも誠実に接してくれる。
杏寿郎を見上げていて、ぽつりと呟いた。
「いつも…だよね…」
「む? 」
ひなたの言葉の意味が分からず杏寿郎は聞き返した。
「…っ、なんでもないの」
ひなたは、自分の口から無意識に出た言葉を笑って誤魔化しながら、自分は何が言いたかったのかと、一人思った。