第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「千寿郎は頑張っている。杏寿郎を支え、ひなたを支えながら自分も努力をしている。鍛錬にも色々ある、人が大人になるように、千寿郎もまた自然に様々な強さを身につけていくだろう。今の気持ちを大切にするんだ」
鱗滝には、千寿郎のひたむきな想いが伝わっていた。
「千寿郎、この場所にいつでも来るといい。お前は剣士見習いとして、いつだってこの場所に戻る事ができる。私が千寿郎を待っている」
「鱗滝…さん」
父となかなか話せていない事や、剣士としての才に恵まれてない感じがする自分のこと。辛かった気持ちを、鱗滝さんは分かってくれている気がして嬉しくなった。
「…ありがとうございます! 」
弁当箱にお握りを詰める鱗滝を手伝う千寿郎の心は、朝起きた時よりも晴れていた。
「兄上とひなたさんは、この佃煮が大好きです! 」
鱗滝が作った、きのこ味噌の佃煮を入れ握ったお握りを、千寿郎は嬉しそうに眺める。
「そうか…。お前も好きか」
「はい! 」
千寿郎の笑顔が可愛らしく輝いていた。
「煉獄さん、どこまで行くの? 」
杏寿郎が見せたいと言った場所へと向かっているようだが、山の中を随分と歩いている気がする。
「もうすぐだ。そう急かすな」
杏寿郎はひなたを連れ、森の中をどんどん歩いて行く。
「お腹空いてきたなぁ…。今日って、千寿郎君がいないから、なんか寂しいね」
今まで、毎日一緒に走ったり筋トレしたり、ひなたを励ましてくれた千寿郎君がいないのが寂しく感じてしまった。
杏寿郎はひなたの隣でクスッと笑った。
「そうだな。千寿郎も毎日、頑張っていたからな。汗をかき笑っている千寿郎の姿が見えないのは物足りないな! 」
お兄さんの顔をして、明るく笑った杏寿郎を陽の光が照らした。
なんだか、その笑顔を見ただけで、寂しさが薄らいで行く気がして、ひなたは見惚れるように杏寿郎の方を見上げた。
「お、ここだ!着いたぞ、ひなた 」
「ん?…ん⁈ 」
ひなたが杏寿郎から目を離して見ると、そこには風流な庵が一軒、木立の中にぽつんとあった。
鱗滝の家より更に小さく、可愛らしい民芸調な建物だった。