第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
木の下から杏寿郎がひなたを見上げている。
「降りたいけど、どうやって降りたら良いの? 」
飛び降りるには高すぎる。ひなたは悩みながら答えた。
「また呼吸を使ってみろ。着地は簡単だ」
「そう言われてもぉ…怖くなってきたの」
さっきは、ふわっと跳べたけど、今は木の上にいる事が怖くなってきて、呼吸に意識が向かないのだ。
ひなたの困っている声が杏寿郎の元に届く。杏寿郎はひなたを甘やかすつもりはなかったが、ひなたが遭遇した不幸な事件を考えると、ひなたを追い込むような修行よりも、精神面の回復を窺いつつ、自分の能力を開花させる方針を取ろうと思っていた。
…甘くしている訳ではない。
杏寿郎は腕を大きく開いて、胸を開けた。
「ひなた、ここに飛び込んで来い。受け止める」
杏寿郎のマントがヒラっと空に舞った。木立を渡るそよ風が、二人の間をすり抜けていく。
「いいの…?私、重いよ」
「構わん。大丈夫だ」
煉獄さんが腕を開いて見上げている。ひなたは飛び降りる事にした。
「じゅあ、いくね…きゃっ! 」
煉獄さんを信じているとは言え、木の上からダイブするのは勇気がいった。ぎゅっと目を瞑り飛ぶと、直後、どんっという衝撃と共に杏寿郎に抱き留められていた。
…硬い感触だ、と思った。わりと背の高いひなたを、しっかりと受け止める広い胸。日頃の鍛錬の賜物か、煉獄さんの身体は全くブレもせずにひなたを軽々と抱き留めていた。
「あ、ありがと…」
「ああ」
杏寿郎の胸から顔を上げ、お礼を言うと目が合った。杏寿郎もひなたの無事を確認するように瞳を交えると、すぐに逸らしてひなたを下ろす。
「あのね、煉獄さんが言ってた呼吸、初めて理解できたかも!急に身体に力が湧いて、軽く感じて、跳べたの」
杏寿郎は頷いた。
「初めはそうだ。きっかけを掴むまでは悩みもするが、繰り返すうちに自然に出来るようになっていく。練習あるのみだ!行こう」
向こうの滝で待っている千寿郎君の方へと向かう。