第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
夕食は鱗滝さんが作ってくれた。夏とはいえ、標高の高い場所で迎える初めての夜。空気は澄んでいて冴え、日が沈むと寒さを感じる程だ。
囲炉裏に吊るされた鉄製の鍋の中では、具材がぐつぐつと音をさせていた。
野菜に山菜、見た事のない種類のきのこが数種。
「うわぁ!良い匂い。お鍋だぁ! 」
「良い香りですね!珍しい木の子が入っています!何ていうキノコだろう」
囲炉裏端に座り、鍋を覗きこんでいるひなたと千寿郎の様子を見て、鱗滝さんが豆腐を鍋に投入しながら言った。
「それはタマゴタケだ。とても美味い木の子だから、食べてみると良い」
手際よく鍋の中の火の通り具合を確かめて、串に刺した川魚の焼き加減を見ながら時々お魚の位置を入れ替えている。
長く1人で暮らしているのか、料理も手慣れていて、家の中も綺麗に磨かれている。
鱗滝さんって何でも出来て凄いなぁと思いながら、ひなたは鱗滝さんの手元を眺めていた。
「…お腹は空いたか? 」
ひなたの視線に気がついたか、鱗滝がひなたに話しかける。鱗滝は赤い天狗のお面を付けたまま、鍋の中を見ている、
「はい。とてもお腹が空きました。鱗滝さんは、いつもお一人なんですか? 」
ひなたが尋ねると、鱗滝さんはちょっと恥ずかしそうに咳払いした。
「…?…」
ひなたと千寿郎は思わず顔を見合わせる。聞いちゃいけない話だったかなと、二人で目で会話した。
…後で煉獄さんに聞いてみよう…。
「兄上は遅いですね。明日からの鍛錬の場所を確認すると言ってましたが…。時間がかかっているのでしょうか」
壁に掛けられた時計を見て千寿郎が心配そうに言った。狭霧山を見たいと出て行ってから、そろそろ二時間が経とうとしている。
外は日も暮れて暗くなってきている。千寿郎が心配するのも無理もない。ひなたも、挨拶が終わって部屋を案内されるとすぐに出て行ってしまった杏寿郎の事が気になってはいた。