第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「ひなた。手拭いだ。汗を拭いて」
朝の稽古が終了して、庭の井戸水を汲み上げた杏寿郎は、木桶になみなみと溢れる程に満たした水に手拭いを浸す。絞ってからひなたに手渡した。
「ありがとう!わあ、冷たい! 」
手拭いを首元に押し当てたひなたは、その冷たさに歓声を上げた。
「気持ち良い! 」
「そうだろう!! 」
木陰にある井戸で休憩している。同じ庭でも日陰は涼しくて、茂みから鳥の声も聞こえてくる。今日も暑くなりそうだけど、気持ちの良い朝だ。
白い手拭いを水から引き上げた杏寿郎は、ひなたを見て笑っている。杏寿郎の手の中で透明な水が煌めきながら落ちていく。
手拭いを絞るだけでも絵になる人だ。師範は動きが綺麗だなぁ。
「ああ…良い気持ちだ」
冷たい手拭いを額と目に押し当てて、杏寿郎は呟いている。
ひなたは腕の汗を拭いながら、そんな杏寿郎を見つめてしまった。
「ねぇ、煉獄さん。全然寝てないんでしょう?明け方に帰って来てから、私の鍛錬をして、疲れてるよね。大丈夫? 」
杏寿郎は手拭いから顔を上げひなたに答えた。
「任務明けの任務もよくあるし、大丈夫だ。朝は鍛錬するのが日課になっているから、慣れている。気にするな。頑張る子には付き合う」
「あ、ありがとう…」
確か昨夜は、日付けが変わる頃にはもう、煉獄さんは家を出ていたと思う。たまたま起きていたひなたは、煉獄さんが部屋を出て行く時の、微かな音を聞いたのだ。
煉獄さんの愛用している刀が、ゴトリ、と置かれた音がして、そっと襖を開けて廊下を見たら、煉獄さんの羽織の後ろ姿が見えた。白い羽織が暗い廊下でも浮き上がるように光って見えたから。
ああ、煉獄さんはお仕事なんだって。見ていたんだもの。
それで帰って来てから、床磨きをしていたひなたに話しかけてくれて、朝練が始まった。朝から快活な煉獄さんは、元気な男の子、という印象を受けるけど…。
ひなたの為に時間を割いてくれているのを感じて、ひなたは一人、お庭に出て練習をする事にした。
「こうだったかな?…あれ、足がついて来ないな」
忘れないうちに復習を、とやってみると細部を忘れている事に気がつく。