第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「ああん…もう腕がキツイ! 」
雑巾を持つ手が痺れて、ポロリと手から落ちた。
ここは煉獄さんの家だ。ひなたは3日前からここで生活しながら、煉獄さんの継子デビューである。
「この家も、やたらと広いんだもん。うー! 」
玄関から続く長い廊下を振り返って見たひなたは、今まで拭き上げて艶良く光っている床板にペタリと座り込んだ。
「煉獄さん、どこに行っちゃったのかなぁ?」
脚を伸ばして楽な姿勢になってみた。
「ま、いっか。休憩できるもん…っ疲れたぁ〜っ! 」
廊下に誰もいないのを良い事に、コロンと横たわった。
「ああ〜!楽っ!このまま寝ちゃいたい」
廊下に横になったまま、ひなたは目を閉じる。今朝は5時に起きて、というか起こされて、家中の窓拭きから始まり、全ての雨戸を開けて磨き、廊下を磨いていたのである。
「おじいちゃんの家だって、私一人で掃除なんてした事ないもの…。無理だよ…」
朝早かったので、横になると睡魔に襲われる。そこが床でも構わずに、とろとろと眠りの世界に入って行こうした時…。
「ひなた。まだ終わっていないぞ」
耳元で、透明感ある凛々しい声が優しく響いた。
パチリ。ひなたが瞼を開けると、視界いっぱいに煉獄さんの顔が。
「あっ!煉獄さん…」
「おはよう。ひなた」
煉獄さんはひなたの顔を覗き込んでいる。ひなたから見ると、煉獄さんの紅い瞳、おでこが数センチ先に見えた。上から覗き込んでいるので、顔が逆向きだ。
杏寿郎はしゃがんで、ひなたの顔スレスレの距離で見ていた。
「あと半分だな。廊下を磨き上げたら次は…」
「まだやるの⁈ 」
ひなたはしぶしぶと起き上がると、落ちていた雑巾を手にした。
「朝からずっと、やってるよ。もう疲れたの」