第2章 華麗なる危険な時代
数日が経ち、杏寿郎はこの山に随分と慣れた。昼間は、美しい川のせせらぎで体を洗い清らかな水を飲む。風の向きで時折、藤の花の香りがする事もあった。
この山はとても不思議な山だった。山の山麓から山中まで、藤の花が咲き乱れている。美しい藤を抜けると、生け捕りにされた鬼どもがうようよしていて気が抜けない。明るい陽の光が有り難かった。
陽のあたる川面がきらきらと輝いている晴れ間に、脱いだ衣服を川で洗い、岩場で乾かした。乾くのを待つ間に、木陰で仮眠をとる。
食べられる草を見つけて、柔らかな葉を口に入れてみた。緑の味が広がり、調理されていない草花でも美味いと感じた。
千寿郎が持たせてくれたお握りは、最初の日に食べてしまったから、あれから米粒という物を口にしていなかった。強い緊張の中にいるから、普段よりは腹が減ったという感覚は少ないものの、草の新芽でも十分に美味しく感じる程、腹は減っている。
乾いた着物に袖を通しながら、家にいる父と千寿郎の事を思った。二人共、きちんと食事をしているだろうか。父上は任務があるから家を空けているだろう。
千寿郎は一人で大丈夫だろうか…。
離れている弟の事がとても気がかりであった。
袴まで身につけ、まだ明るい川べりに一人腰掛けて、自分の手のひらを眺めた。
ずっと刀を握りしめていたから、豆が潰れている。山の中を走り、鬼を斬った。
助けを呼ぶ声の方にも駆けつけ、何度も鬼を斬った数日間だった。
「また夜がくる…兄は頑張るから、千寿郎も頑張れ! 」
早く弟に会いたい。あと二日、この山での試練を乗りきらなければ。
杏寿郎は刀を握ると、また歩き出す。