第2章 華麗なる危険な時代
藤襲山での七日間は、長いような短いような、終わってみると短かった気がした。初日、日が落ちる頃には、これまでに遭った事のないような異形をした鬼が、自分めがけて飛ぶように近づいてくる。
「炎の呼吸 壱の型 不知火!! 」
飛び出して来る鬼…元は人として生きてきた者たち…。
今、杏寿郎の目の前を飛び上がり牙を剥き出しているのは、破れた着物がかろうじて体に巻きついているような、皮膚も人間離れした怪物だった。
最初こそ驚いたものの、山の中を突き進むうちに、鬼という者にも慣れてきていた。何より杏寿郎を前に向かわせたのは、杏寿郎と同じように、まだ年端もいかない少年達が、果敢に鬼と対峙していたからである。
「うわぁああああーーっ!! 」
命懸けの悲鳴が森のあちらこちらから響いてくる。
「んっ?! 」
声のする方へと駆け出せば、鬼に脚を掴まれ今にも喰いつかれそうになっている少年の姿が、杏寿郎の視界に飛び込んできた。
「今助ける!頑張れ!! 」
勢いをつけて鬼と少年の間合いに入った。
「やああッ! 」
少年を身体の後ろに庇いながら鬼の首に刃を振る。
ズサッ!杏寿郎の一太刀で一瞬のうちに切り離された鬼の首は地面に転がり、体はガタリと崩れ落ちる。歪んだ顔をした鬼の顔には獲物を口にできなかった悔しさが見てとれた。空気中に塵と消えて行くと、後には何も残らなかった。
「君、怪我はなかったかい? 」
尻餅をついて、わなわなと震えている少年に声をかけた。
「…ああ…ああ!ありがとう!一人目を切ったと思ったら、すぐに二体目が現れたんだ…咄嗟に構える事もできなくて…本当に…あっという間の出来事で…」
青い顔をして震えている。杏寿郎はほっとした。
「まだ沢山いると思うから、朝日が昇るまでは気を抜かないよう持ち堪えるんだ! 頑張れ!! 」
燃えるような瞳と輝きを放つ金色の髪が、震えていた少年の心に活を呼び覚ます。
「ありがとう。生きてここを出よう!君は強いな」
少年に羨望の眼差しを向けられて、杏寿郎は恥ずかしい気持ちになった。
「いや、俺もまだこれからの身だ。共に頑張ろう!ではまた! 」
また走り出す。小雨が降りだしていた。