第2章 華麗なる危険な時代
幼馴染であり、将来は杏寿郎の妻候補の一人に数えられる女の子である。
大河内美耶子は杏寿郎に駆け寄った。
「杏寿郎様! 」
「美耶ちゃん。何かあったか? 」
美耶子は杏寿郎の前で止まると、頬を染めた。
「お父様から聞いたの。杏寿郎様が今日から大変な試練を受けなければならないって! 」
杏寿郎は頷く。
「うん。今から行って来る!美耶ちゃん、それで来たのか」
美耶子は我慢ならずに涙がこぼれた。
「杏寿郎様が命懸けの事をされるって、お父様が話しているのを偶然聞いたの…どういうこと?どうして杏寿郎様がそんな事しなくちゃならないの? 」
いつもは大人しい美耶が、取り乱した様子で尋ねてくる。美耶子は鬼殺隊の事をまだ知らない。杏寿郎が危険な目に遭うかもしれないと聞いて、たまらず家を飛び出して来たのだ。
美耶子の迫力に、思わず杏寿郎の目が見開いた。
「詳しく話す事はできない。だが、おじさんが仰っていたのは本当だ。俺は頑張る事しかできないが、全力を出してくる! 」
いつもの杏寿郎らしい、さっぱりとした明朗な物言いだった。
「わたし…私、杏寿郎様のご無事をお祈りします!待ってるから…」
両手で顔を覆い、泣き出した美耶子に、杏寿郎は少し面食らってしまった。
「大丈夫だ!美耶ちゃん、俺は、またここへ戻って来るよ…」
「ほんとうね?杏寿郎様、美耶と、約束して」
長い黒髪を桃色のリボンで結んでいる美耶の、俯いた肩から髪がサラサラと流れてこぼれ落ちる。
杏寿郎は、そんな美耶子の姿を眺めていた。
「美耶ちゃん。心配しないでくれ。俺は俺のやるべき事をしてくる。…ありがとう」
伏せられた睫毛が長い美耶の顔を見ながら、杏寿郎は微笑んだ。
「うん…杏寿郎様…私、待ってる」
「では!遅れてはいけないから俺は行く!美耶ちゃんも気をつけて帰れ! 」
杏寿郎の顔を、切なそうな目で見ている美耶子に明るく笑い、杏寿郎は次の瞬間には走り出していた。