第6章 ※ 再びあなたに逢えたなら
「杏寿郎!待って」
どこまでも続くような草原にいるひなたは、同じく草原にいる杏寿郎の姿を追って走る。
「早く追いかけて来い!ひなた、このままではもう会えないぞっ」
足首まで伸びた青い青い草を踏み締めて、杏寿郎はひなたを振り返った。
「早く来い、ひなた! 」
ひなたは杏寿郎に追いつこうと必死になって走る。
「待ってお願い、杏寿郎っ! 」
走っているのに杏寿郎に触れる事もできない。ひなたは悲しくて泣きたくなった。
「杏寿郎…」
精一杯、走ったのに追いつけない。ひなたは足元の草むらに両手を着いてしゃがみ込んだ。息が乱れて、もう走れない。
涙がポロッとこぼれて、草の上を跳ねて流れて行った。
「…っ、うっ…う…」
何故泣くのか、この気持ちは何なのか、分からないけど胸が苦しかった。
「…杏寿郎……」
下を向いて泣いていると、目の前の草がサワッと揺れ、炎の模様の脚絆が現れる。
顔を上げると、輝く太陽を背にした杏寿郎が右手を伸ばして微笑んでいる。
「…杏…じゅろ…」
泣き顔で見上げるひなたに、杏寿郎は笑った。
ひなたは手を伸ばした。杏寿郎がその手を掴み、引き上げてくれる。
ぐっと強い力でひなたを引き寄せると、杏寿郎はひなたを自分の腕の中に抱きしめた。
杏寿郎の胸の中は広く、着ている隊服の生地は張りがあった。
「お願い、もう、どこにも行かないでね! 」
胸の中で咄嗟に出た言葉に従う。杏寿郎に、どこにも行って欲しくなかった。
杏寿郎を見上げるひなたに、優しく笑ってくれた杏寿郎。ほっとして杏寿郎の身体に回した腕で抱きしめた直後、杏寿郎に異変が起きる。
ひなたの腕の中で、杏寿郎は消えていく。
その身体が、だんだん薄くなって、杏寿郎の背中に回している手が、厚い胸板を感じなくなっている。腕の中が軽くなっていくのが怖い。
「だめ…だめ…いや…消えないで!杏寿郎」