第1章 吉兆を告げる白梅
程なくして目を覚ました杏寿郎は、千寿郎を抱いていたはずなのに、いつの間にか布団に寝かされている事に驚いた。すぐ隣には千寿郎が寝息を立てて眠っている。
「あっ…父上が、お帰りになられたんだ…」
杏寿郎は慌てて起き上がると、千寿郎の頬に触れた。
「…千、お父上がお戻りになったよ。起きて」
「ん…ん…んん…」
目を開けない千寿郎をそのまま残して布団を出る。
台所から食器の音がして、急いで行くと着流しを着た槇寿郎がお味噌汁を温めている所だった。
「父上!お帰りなさい! 」
杏寿郎は父に近づくと、味噌汁碗を父の近くに置いた。
「うむ、すまんな」
もう、温めて食べるばかりに用意された汁やおかずを、それぞれのお膳につぎ分けていく槇寿郎のお手伝いをして、杏寿郎も塗り物の飯碗に白米を盛り付けた。
小さな杏寿郎も、これくらいのお手伝いはできる。
まだ、ガスや熱い鍋などは触らないように言われているので、お膳のおかずのお皿の位置をきちんと整えたり、できる事をお手伝いする。
熱々のお味噌汁の碗を置いた父が、ポツリと言った。
「杏寿郎、今日は忙しい一日だったが、良い日であった」
「はい」
いつもは、あまり話さない父が、杏寿郎に今日の話をしている。杏寿郎は思わず父の顔を見上げた。
「その…。お前も知っているだろうが、お館様の大事な日でな」
「お見合いというものですか? 」
「まあ、そうだ」
杏寿郎はお見合いというものの内容を知っているのかと、槇寿郎は思った。
杏寿郎は大変に賢いので、大人の話でも理解している事がある。
「お館様のお見合いでな。父はそのお世話役を…したんだ」
「はい」
自分の顔を期待で輝く顔をして見上げている、小さな杏寿郎の視線が、なんだかとてもこそばゆい…。