第1章 吉兆を告げる白梅
神籬家の一行が産屋敷家に到着する頃には、薄曇りだった空は霧も消えて、少しずつ晴れ間が見え始めていた。
車から降り、耀哉の待つ茶室へと案内されるあまねの手には、今朝切ったばかりの梅の花の可愛らしい枝が握られていた。
梅の花を驚きで見つめる槇寿郎に、あまねは静かに答えた。
「こちらは境内に今朝、咲いていた梅の花でございます。今朝になり花開いておりましたので、耀哉様にお届けしたく、少しですがお持ちいたしました」
あまねもまた、まだ見ぬ耀哉の事を想っていた事を知った槇寿郎は、この縁談が運命によって導かれているような、不思議な気持ちになっていた。
「美しい御心遣いです。耀哉様がお待ちです、参りましょう」
「はい」
あまねと、その両親を連れて茶室へと向かう。神職であるあまねの父は、真面目で高貴な雰囲気のある人だった。
槇寿郎は、耀哉が今日のお見合いを産屋敷邸で行う事を決めた理由が分かった気がした。
神籬家の人々には、信用できると思わせるものがある。
そして、槇寿郎も驚くほどに、あまねは大層美しい女性で、17歳になったばかりと聞いていたけれど、思慮深い女性だという印象を受けた。
茶室に通されたあまねが、部屋に飾られた白梅を見て驚いたように、耀哉もまた、あまねが持って来た白梅の花に驚きを隠せなかった。
お互いに白梅を贈り合っていた事を知ると、初対面で二人の間に漂っていた緊張感が優しく解けていき、柔らかな空気に包まれた。
明るく晴れた庭で、若い二人だけで話をする間、槇寿郎は離れた場所から二人を見守っていた。
話す内容などは聞こえはしないけれど、あまねが耀哉に信頼を寄せているのが槇寿郎にも雰囲気から伝わってきた。
お見合いが終わる頃には、耀哉もあまねも、随分と打ち解けて、お互いに好意を抱いているのが槇寿郎にもわかるほどだった。
この縁談が、何か、神秘的な力によって導かれているような。槇寿郎もその中にいて、歴史的な一日の目撃者になったような、そんな気持ちになっていたのである。
「杏寿郎、出逢いとは不思議なものだ…」
暖かな火鉢の温もりで、すやすやと眠る息子達を眺めていた。