第6章 偏執
ふと自ら口走った会話が脳裏に浮かぶ。そういえば昨日、俺にはまだ味覚がある話をしたのだった。内側から自壊する感覚とは別に腹の底がザワザワする。
「……バカらしい」
ふとホットケーキを見やり、一切れ口に運ぶ。甘い。寝起きの喉に張り付くような甘さだ。しばらく苦労して咀嚼していると024が顔を綻ばせながらホットケーキを切り分けだした。……飲み込むのを待っている気配がする。
「残ったら私が食べますから、もう一口どうぞ」
「お前ねえ」
一瞬前に臓器を引きずり出してやろうかと言われた反応ではない、つくづく狂っている。自ら剣をもつような女だ、主張はそりゃ強いだろうが……。しかし、実際わたしから欠けたものをティナに与えるには十分役立った。とはいえ無い事を向けられるのは苦痛でもある。やはり、腹の底に疼く。怒りには到達しない半端な焦燥感。
口を開けて次を催促してやると嬉しそうに餌付けを始める。この愚直さがきっと自分から失われたモノではあるんだろう、今や愚かにしか見えないモノ……。