第5章 拠り所
「ケフカ様とティナでは違うんです!」
「ほぉ?どう違うんです?」
道化師の笑う顔が魔法の燭台の灯りに揺れる。好意を抱いていて、容姿も整っていて、大人の異性なのだ。それが例えケフカ様だとしてもやはり恥ずかしいものがある。
「いいから来い、前にもあっただろ」
「うぐぐ……」
行きたくない理由を話すのも嫌だ、けどそこに入るのも恥ずかしい……!ケフカ様といえばいつも通りニヤついているので、表情を伺うも真意を読む事も出来ない。ケフカ様はやはり、なんとも思わないのだろう。動揺して静かになっていたアレを思うなら、多分。
「……わ、分かりました」
結局、私には折れるという選択肢しかなかった。そろりと寝台に入り込むものの、向かい合わなければ寝そべるのも難しい。
妙な緊張でガチガチになっていると、そんな私を置いて明かりはスッと消えた。顔を合わせているよりはまだ恥ずかしくないか、と嘆息する。しかし目を瞑ればケフカ様の魔力が傍にある事も息遣いも余計に感じられて堪らず目を開ける。……落ち着かない!!!
そ、そうだ!なにも慌てる事なんてない……!スリプルをかけてしまえば良いのだ。そうすれば問答無用で眠気に誘われる筈。
しかし衣擦れの音と共に抱き寄せられたのを感じ、思考も息も何もかもが止まってしまった。嗅覚の鈍い私には今まで感じられていなかったが、一瞬にして胸いっぱいにケフカ様の香が広がる。……あれだけ遠かったあの人が今ここに存在している。……じわりと体の内に広がるこれは、なんていう気持ちなのだろうか。酷く高揚して緊張する、でも心地良い。眠ってしまうのが勿体ないような気がしてきて私は長い夜をこのまま過ごすことに決めた。