第5章 拠り所
「……先ほど言った夢以外の記憶はありません。夢ではいつも寂れた一室に居て茶髪の青年を見送る日ばかり夢に見ます。……でも、名前もどんな人かも思い出せません」
「はあ……、そうですか……」
ため息と共に緊張の糸が切れたのを感じた。呆れられているのか失望されたのか……、とにかく怒りが収まっただけでもありがたい。
「……お前は故郷が恋しいですか?」
「え……っと、……恋しいかは分かりませんが……興味はあります……。」
「お前は私の物ですよ、……勝手は許しません。」
手錠でも掛けるようにケフカ様の手のひらが両の手首を拘束する。思わず呆気にとられて手首と顔を見比べた。ケフカ様にとって何の意味もなく邪魔で代用品がないからたまたま使っている役立たず、そういう認識だと思っていた。
「ふふ……、私はどこかに行ったりしませんよ」
「……なぜ笑う」
「あ、すみません……。ただ……ちょっと、嬉しかったんです」
ケフカ様が奇妙なものでも見る顔になり、思案するように視線を揺らし、目をそらした。沈黙が流れたが手首は拘束されたままだ、一体どうしたのだろうか。
「ケフカ様……?」