第8章 独占欲
「……取るなとは言いません、元は無かったんですよ」
ケフカ様の手を引いて私の胸にあてる。ここに鼓動は無い、死体の筈だ。今までもこれからも。そもそも私はケフカ様を苦しめるくらいなら命など要らないと思っていたのだから、原因がハッキリしたのは都合がいい。
「お手柔らかに暴いて下さいね、あっ……味覚は」
「まだこだわるのか」
ふ、と唇を歪めた。怒りが凪いでいくのが分かる。
なんとなくケフカ様が普通に笑ったのを初めて見たような気がした。何らかの意志で笑みを発するのではなく、思わず漏れるようなそのままの感情の笑みだ。
「保証しません、健康な体を壊すんだ」
「………」
「いつもの返事はどうしました?」
爪先へ反らしていた視線を顎が掴まれ無理矢理覗かれる。やはりスッカリ透き通った冷たい目をしている、いつもは怒りにも破壊にも歪む事がない硝子みたいな目だ。
「保証できませんよ、お返事」
「……いやです」
く、と愉快そうに口角をあげ喉の奥で笑う。三度、できませんよと呟くと抱きしめられた。体のあちこちが痛む、でも多分これまでで一番平和で幸せな夜だった。