第1章 名探偵と私
『ほーらー!!付いてるんでしょー!』
先程の拗ねた顔から一転してニヤついた顔だ
形勢逆転である
「そ、そちらに紙ナプキンがございますのでそちらで御自分で拭き取りください、、」
__小学生じゃないんだからさ
『はあ、しょうがない』
「…え、?あえ!??!」
思わず素っ頓狂な声が出てしまったが許してほしい
カウンターに置いたままの私の左手を握って持ち上げて、そのまま私の指先で自身の口に付いたクリームをつつっと拭った
そしてクリームが付いた私の指先をペロッと舌先で舐めたではないか!!!!!!
「な、ななななにするの!?!!?ですか!?」
『おぉ~さすがのプロ意識じゃない!!拍手だね』
「こ、ここお店だよ!?何するの!??お客さんびっくりしてるじゃない!!(小声)」
__うああお店に迷惑かけたくないのに、、おじさんおばさんごめんなさい~~!!(涙)
何やら満足気に拍手なんてしているその顔をひっぱたいてやりたい衝動に駆られたがあいにく店内なので自重した
きっと彼氏なのにいつまで経っても他人行儀な扱いをされることへの仕返しのつもりなのだろう
知らんけど。
彼女のことが大好きなのは嬉しいし、今の妙に色っぽい行動にドキッとしたのも本当だけれど、店の中では勘弁してほしい
私はこの喫茶が誰よりも大好きだ
私がここで働くようになってからもう2年半の月日が経とうとしている
それでも、小さな頃から元々喫茶の常連であったという両親に連れられてよくパルフェを食べに来ていたから、私ももうすっかりこの店の常連の1人だ
10歳で両親を事故で亡くして、親族とろくに関わりが無かったせいで、独りきりになった私を引き取って育ててくれたのがこの店のマスターと奥さんだった
そのままありがたいことにすくすくと育った私は、恩返しのためにも、何よりも大好きなこの喫茶で働くことにした
おじさんもおばさんも喜んでくれたし、大好物のおばさんのパルフェを初めて自分で作ったときは感動してしまった
__メイドのような仕事服だけはどうにも納得がいかないのだけれど。
きっと瀬奈ちゃんに似合うから、可愛いから、とおばさんの圧に負けて渋々着てそのまま仕事着としてすっかり定着してしまった。
__まあ、乱歩も可愛いと言ってくれるからいいか。
チョロいな、私。