第1章 名探偵と私
15時。店の大きな柱時計の音が店に響いている
ヨコハマの一角にある 喫茶うずまき は甘味や珈琲を楽しむ客で既に賑わっていた
__もうすぐ…かな??
カランコロン__
『こんにちはー!!!!!!!!!』
「!!」
『やあやあお疲れ瀬奈ちゃん!今日もお客さんいっぱいじゃないか!!』
「ええ、おかげさまで」
『やっぱりここの甘味は最高に美味しいからね~』
「いつも食べに来てくれてありがとうございます、江戸川さん」
店中の人間が振り返るような大きい声で入店してきたこの男は、江戸川乱歩である
茶色のスラックスに同じ色のマントのような外套、仕舞われる気配のないシャツに黒のベストといつ見ても崩れかけのネクタイ、そして少しへたったハンチング帽、、
まるでいつぞやに読んだ推理小説に出てくる探偵の衣装のような格好だ
そして、本物の探偵である
この喫茶が入っているビルの上階に事務所を構える“武装探偵社”の調査員の1人
武装探偵社__
昼と夜の間を取り仕切る、薄暮の探偵社
荒事専門の事件を取り扱い、その社員の多くは“異能力”というものを所持するのだとか
そんな都市伝説のような会社の社員なのだが、、
『全く、いくら仕事中だといっても恋仲である男にそんなに他人行儀に接さなくてもいいじゃないか』
拗ねている。
市警にも頼られるような稀代の名探偵が注文したパルフェを頬張りながらぶすくれているではないか
『ねえ!聞いてる???』
「お仕事中ですから、あくまで今は店員とお客様ですから!!」
『……』
また拗ねてしまった
そんな乱歩と私、柊瀬奈は少し前からお付き合いをしている
私が女給として働く喫茶に、乱歩はほとんど毎日15時の八ツ時になると私の作るパルフェを食べに来るのだ
1番こんなに私のパルフェを美味しそうに毎日食べるのは間違いなく乱歩だ
__ほら、今も目を細めて口いっぱいに苺を頬張って…あ、口に生クリーム付いてる
『……何?そんなに見つめちゃって。僕のパルフェなんだからどんなにお願いしたってあげないよー!!』
__私が作ったんだけどな。
じゃなくて!!
「クリーム、口に付いてるよ(小声)」
『え!……じゃあ取って』
「…はあ?」
__急に、一体何を言い出すんだこの男は。