第10章 恋慕3−1 花の赦し ノーマルEND【家康】
女中たちに名無しの体の清拭や着替えを指示し、その間にテキパキと準備をする。
たくさんの傷に一つ一つ丁寧に処置を施す。
終わると一先ずほっとして、ため息が漏れた。
安土城にも知らせの遣いを出し、しばらくすると武将たちが駆けつけてきた。
「名無し!!」
政宗が駆け寄り名無しの肩を掴む。
「怪我してるから動かさないで」
家康が声を荒げる。
「あぁ悪ぃ」
「見つかって本当に良かったが、容態はどうだ?」
「全身怪我してます。刀傷は無いから襲われたのではなさそうです。幸い、骨は折れてないし、大きな傷は無いけど、後は頭を打ってないか‥‥」
「どこにいらしたのですか?」
「川辺に倒れてた。足を滑らせたか‥‥身を投げたか‥‥」
政宗、秀吉、三成と家康の会話を聞いていた光秀が、意味ありげな目で家康を見つめる。
「なぜ、名無しが身を投げる?」
「‥‥‥‥」
(原因は自分にある、今言おう)
そう決心した家康が口を開こうとした時、信長の声に遮られる。
「発見してからずっと、目を覚まさないのか」
「え、ええ。ずっと意識が戻らない。それが心配です。体は大丈夫だけど、頭を強く打って、名無しの意識が‥‥死んでしまっていないかが」
安堵に包まれていたその場の雰囲気が、一転してはりつめた。
「家康、目を離さず名無しを診るように」
「はい‥‥あ、あの‥‥」
さらに言いかけた家康を遮るように、信長は名無しの手を取り語りかけた。
「貴様は俺や皆に幸運を呼び込む存在。勝手に死ぬ事など絶対に許さぬ」
その後は怪我による発熱が続いた。
家康は昼夜とわず看病し続ける。
果たして名無しの体力はいつまで持つのだろう。
入念にすりつぶした粥を彼女の唇に流し込みながら、心配で押し潰されそうだった。
とにかく目を覚まして欲しい。
暇を見つけては武将たちが訪れ、名無しに呼びかけた。
信長が名無しに呼びかけている間、家康は腕を組み廊下でじっと待っていた。
名無しが目を覚ましてくれるなら、それが自分ではなく信長の呼びかけでも、もう良かった。
だが、誰が呼びかけても、反応は全くなかった。