第33章 歪んだ愛で抱かれる 後編 【三成】R18/ヤンデレ
「それに比べて私の愛は…身勝手だ…。名無し様をどうしても手に入れたくて、卑劣な策でいたずらに運命を狂わせた…」
名無しは呆然と立ちつくしながら、肩を震わせる彼を見おろす。
信じられない光景に思えて目を疑った。
「救うどころか、ずっと苦しめている。それなのに、名無し様は私を好きだと言ってくれた…。ここにいると言ってくれた。……それに私は強く打ちのめされたのです」
名無しは思わずしゃがみこんで、いつもより小さく見える彼の肩に手を回して抱きしめた。
「…名無し様、好きです、愛しています、心から」
顔を上げた三成の瞳は涙があふれている。
まるでさざなみ立った湖の水面のようで……
乱反射した光のきらめきがみるみると零れ落ちていく。
「ここを出ましょう」
「え…」
「…貴女は自由だ。その意思のままに生きるべきです」
療養が明けたという体(てい)で、名無しは安土城に戻ることとなった。
久々の太陽の光は目を刺すように眩しかったけれど、深まった秋の空気は心地よい涼やかさで肌を包む。
安土城への里帰りの日と同じように、三成は護衛の騎馬を率いていた。
その端正な横顔を見つめながら、名無しは言いようのない複雑な思いにかられる。
これからはどんな関係になるのだろう。
打ちのめされて震えていた彼の悲痛な姿が心に浮かぶ。
紫色の瞳から零れた涙は本当に美しかった。
『貴女は自由だ』という言葉、
そして監禁から解放したのはきっと、身を引くという彼の決意。
そう思うと、心に冷たく乾いた風が吹くような強い寂しさを感じてしまう。
あんなにも翻弄されたのに…
苛烈で重い愛を心にも体にも強引に刻み込まれ続けたのに…
それなのに一気に突き放されたような気がした。
とはいえ、健全な環境に戻れることは良かったと思う。