第33章 歪んだ愛で抱かれる 後編 【三成】R18/ヤンデレ
状況を想像した名無しはその痛ましさにぎゅっと手を握りしめる。
「それでね、はっきり覚えてないんだけど、顕如様は優しく頭を撫でてくれた気がするんだ。最初に桃をくれた時みたいにね。『堪忍な…』って言いながら…。何日か経って意識が戻ったら、もういなくなってた」
「…」
「顕如様は俺を解放してくれたんだと思う。信長様との板挟みの苦しみから逃れられるようにってね、きっと。……だけどね、俺は今、宙ぶらりんだよ。俺にとって顕如様がすべてで、顕如様の復讐を果たすことだけを考えて生きてきたから」
蘭丸は寂しげに笑った。
「それからずっと、もう一人の特別な人、名無し様を探してたんだ。こんな場所に隠されてたなんて、なかなか見つけられなかったよ。三成様は隙がなくて尾行も侵入も難しかったしさー。…ずっと閉じ込められてたんだよね?…大丈夫だった?…」
「……うん」
「行こう、名無し様。俺とここから出よう」
そう言った蘭丸の瞳はいつものようにキラキラしていたけれど、その奥には揺るがない強さがあった。
葛藤を乗り越えもう一切の迷いはない、そんな強さ。
「蘭丸くん、ごめんなさい。私はここにいる」
名無しの答えにも迷いはない。
きっぱりと言い切ったことに自分でも驚く。
そういえば、監禁されてから一度もここから出してほしいとは思わなかった。
「でも、やっぱり三成様は危険だよ。本当にいいの?名無し様を一生、閉じ込められておくつもりかも」
「うん、そうかもね。正直、彼への気持ちは複雑だよ。だけど…」
ずっと葛藤し続けていたけれど、いざ他人に問われてみればあっけないほど簡単に答えは出る。
「私は三成くんが好き…」
「……そっか、わかったよ」
蘭丸は頷いた。
「名無し様はやっぱり強いね。どんな状況に巻きこまれても、複雑な思いを抱えていても、いつも強い意志を持ってる。俺はずっと見てきてそう思うよ」
「…あ…」
その言葉は名無しの心に強く響いた。
三成の策に嵌り、いいように翻弄されてきた自分が惨めに思えてならなかった。
だけど、確かに自分なりに意志を持って行動してきた。
それを気づかされ、肯定されたことが大きな救いになる。