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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第32章 歪んだ愛で抱かれる 中編


「そうだ、名無しに会わせたい者がいる。ちょうど今日、この城に着いたんだ」

「どなたでしょう?」

楽しそうな泰俊にそう尋ねると、隣国の城の姫だと言う。

名無しはハッと思い当たる。

領地での反乱の鎮圧中、川名軍は傘下の大名の城で兵糧の供給などを受けていた。

彼女はそこの姫で、甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれた。

ぜひ側室に迎えるようにと、家臣の嶺原が勧めてくれた。

泰俊は悪びれる様子もなく、そんな話をし続ける。

(安土城で聞いた噂は本当だった…。私が知らないうちに話は進んでいて、里帰りでいない間に来ることになってたんだ…)

名無しがまるで真綿で首をしめられているような息苦しさを覚えていることなど、気づく筈もない。

「…会いたくありませんっ!!」

声を荒げた名無しに、鈍感な泰俊もさすがに驚いてピタリと黙りこむ。

こんなに感情を露わにしたのは初めてで、ぶるぶると肩を震わせている妻を、泰俊は目を丸くしてしばらく見つめてから、

「…そうか、名無しは長旅で疲れているだろうからな。これからはこの城で一緒に暮らすことになる。素直でなかなか良い娘だから、仲良くしてやってくれ」

大きな目を細めて微笑み、宥めるように優しく言った。

「……」

まるで住む世界が違う人を見るような目で、名無しは夫を見つめた。

(なんて無邪気で残酷な人なんだろう…)

そう思ってから、不貞行為をした自分に彼を責める資格はないと気づく。

(どっちもどっち…)

側室の存在が事実だったことで不貞の罪悪感は少し薄れ、ある意味、気が楽になっていく。

名無しの感情は急速に冷え、次第に思考がふわふわと浮上していくような気がした。

もはや第三者のように、上からの視点で向かい合う自分と夫を俯瞰している。

実は、実際に真上から一連のやり取りを見ていた者がいた。

(名無し様…)

蘭丸は唇の内側が痛くなるほど強く噛みしめながら、音を立てないように天井裏から去っていった。
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