第31章 歪んだ愛で抱かれる 前編 【三成】R18
まだ暗いうちに目を覚ました三成は、腕の中で眠る名無しの存在を確かめ安堵する。
瞼に口づけると、
「んっ…」
彼女は小さく身悶えて目を開けた。
「あ、すみません、起こしてしまって」
トロンとした瞳で三成を見つめた名無しの髪を愛おしく撫でながら、そっと囁く。
「名無し様、おはようございます。私はこれから所用で城を空けます。午後には戻りますので、ゆっくり眠っててくださいね」
布団の上から優しくトントンして彼女を再び寝かしつけると、そっと部屋を出た。
早朝から城を出たのは、名無しの為に使うあるものを調達するため。
はやる気持ちで馬を走らせ、昼過ぎに城に戻ると名無しの姿は無かった。
驚いて立ち尽くす三成に、秀吉が声をかける。
「朝早くに俺の部屋に来て、帰らなきゃならなくなったって言うんだ。切羽詰まった様子で、理由を聞いても教えてくれなかった。とりあえず朝餉を食べようって言ったんだけど、そんな時間もないって」
「…」
「俺は今日はどうしても城を開けられないから、ちょうど帰ってきた蘭丸に護衛を頼んだ。せめて三成が帰ってくるまで待つように言ったんだが『会うと別れるのが辛くなっちゃうから』って…」
「そうですか。ゆっくり過ごしていただきたかったのに残念です」
三成は内面にふつふつと湧き上がる感情を隠しながら、いつもの笑顔を浮かべて秀吉に一礼すると踵をかえした。
眉を顰め、足早に廊下を歩く。
ぎゅっと握った拳がワナワナと震えている。
『会うと別れるのが辛くなっちゃうから』
名無しが言ったという言葉を何度も頭の中で繰り返した。
前編 終