第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】
ハルの大将としての今回の判断そのもの。
それを言うとハルはすごく嬉しそうで、しばらく孫子について語りだした。
最初は幸村っぽいと思ったけど、今の彼の表情や話し方は知的な印象が強く、どこか兼続さんを思わせる。
勉強熱心で知的、正義感が強く真っ直ぐな少年。
「戦は効率的に進め、犠牲を最小限にしたいのに、父上はまったく理解してくださらない」
あの猛々しい虎のような城主とは、考えが真っ向から合わないんだろうな。
にらまれたのを思い出しただけで身震いしてしまう。
「米の収穫が少なく、今は外に戦を求めざるをえないという父上の考えはわかるが、徹底的に力でねじ伏せるのは信念に合わない。俺は俺のやり方でこの甲斐を豊かにしたい。皆が安心して暮らせる地にしたい」
ハルの目は力強く輝いていた。
前途ある若者がこんなにも熱く国を思っているなんて、甲斐の再興を目指す信玄さまにとって心強いだろうな。
ん…?甲斐…?
「甲斐?ここは甲斐なの?」
「ああ」
外に見えるのは富士山に似た越後の山ではなかったんだ。
本物の富士山。
どおりで大きいと思った。
どうやら今回のワームホールでは、場所だけを移動してしまったみたい。
「それで、どこへ送ればいい?」
「あ…あの…越後に…」
「越後?それは遠いな。どういう経緯で甲斐へ来て戦場に迷いこんだ?」
「それは…」
また上手い説明が思いつかないでいると、
「まあいい。名も名乗れぬほどの訳ありだったな。よし、送ってやる。越後のどこだ?」
ハルはからりと笑った。
「春日山の…城下町です」
「わかった。これから馬で出発しよう。俺が走らせるから眠かったら寝てていい」
「え、でも、遠いから大変で申し訳なくて。城を空けさせてしまうし」
そんなことをしたら、ハルはまたあの城主に怒られてしまう。
「別にいい。越後か良いな。俺も行ってみたいんだ。見聞を広めたい」
あっさり言うけど本当にいいのかな?
「道中では一緒にいろいろな景色を見たい。俺は高いところから眺めるのが好きだ。遠くまで見えてすべてを手にした気になる」
ハルは何だか楽しそう。
「一緒に旨いものも食べよう。甲斐にはない料理が食べられるだろうな。甘いものも食べたい」
だんだん、旅行の計画みたいになってきた。