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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】


全くひるまず、落ち着きはらった声で淡々と告げている様子は森林の中の湖のように静かで、荒ぶる虎のような城主と対称的だった。

「くだらぬ綺麗事を。お前がうつつを抜かして読みふけっている書の受け売りか。戦を重ね、勝利を積み上げ、国をここまで大きくしてきた儂の判断を否定するつもりか?」

「そうではありません」

「それに聞くところによると、何やらお前はおなごを拾ってきたそうだな」

わ、私のこと!

「迷いこんでしまったようです」

「なぜあのような場所に?娘、答えよ」

城主の眼光鋭く冷たい目でにらまれた私は、心臓をギュッと掴まれたようで、もう生きた心地がしない。

「この者は戦を目の当たりにした恐怖からか、ずっと声を発せられない様子」

横から口を挟んだハルの言葉に救われた。

最初に『何も言うな』と言ってくれたのも、私が何か喋れば余計に怪しまれるとわかっているからだろう。

「そんなの捨ておけばよいものを、お前が戦に本気で向き合わなかった何よりの証拠」

「弱く、罪のない者を見捨てていては、大道を歩めません」

「もうよいッ!くだらぬ口応えばかりしおって!!」

城主は刀を抜いた。

そんな!

私のせいでハルが斬られてしまう!

そう思ったのと同時に、体が勝手に動いた私はハルの前へと滑りこんでいた。

ジャキッッ!!

刀の切っ先が胸元をかすめ、後ろに倒れこんだ私の背中をハルが受けとめる。

「大丈夫か!」

私の様子をうかがってからサッと両腕に抱えあげると、彼はその場を後にする。

「ま、待て!!話は終わっておらん!!」

城主が喚くけれどハルは何も言わず、足を止めることなく部屋を出た。








「あ…あの…」

一体、どこに行くんだろう?

私を抱えたまま歩き続けているハル。

追いかけてきた家臣を振り切って、とうとう城を出てしまい、夜道を歩いていた。

ずっと厳しい顔をしている彼に、私はおずおずと話しかける。

「私は大丈夫ですので…」

「そのようだな」

「だから降ろしてください」

「じっとしていろ。もうすぐ着く」

どこに?と思ったけど、迫力に気圧されてそれ以上聞けなかった。

やがて小さな神社に着く。

鳥居の前でハルが一礼したので、抱えられたままで変だけれど私も一礼する。

建物の軒先でようやく降ろしてくれ、並んで縁側に座った。
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