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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】


立派な髭、ぎょろりとした大きな目、眉間に深くシワが刻まれた威圧感のある表情、

ただ歩いてくるだけで発せられる絶対的なオーラ。

この城の城主…。ということはハルのお父さん?

気づいたら既にハルや重臣たちはじっと平伏していて、慌てて私も同じようにひれ伏した。

「いいか、何も言うな」

ハルが小声でそう言い、私は頷く。

重い足音が近づき、そして…

ドゴッ!!

鈍い音が響いて思わず顔を上げると、倒れこんだハルが片手で顔を押さえていた。

城主がハルを殴った…!

「この憶病者がッッ!!」

まるで落雷のような大声。

「なぜ残兵を追わなかった?最後まで徹底的に叩き潰し、禍根を完全に断っておくべきところを、目先の勝利だけでおめおめと逃げ帰るとは!」

城主は畳みかけるようにハルに罵声を浴びせる。

その迫力はすさまじく、ぐわぁんと空気砲で撃たれたような衝撃を感じる。

「実に情けない!正しい判断もできぬ小心者では、とても家督など継がせられぬ!」

さらに怒鳴り散らしながら、

バキッ!!

ハルを蹴り上げた。

「!!」

戦のあとの指示を見ていたから、ハルが逃げ帰ったのではないと私はわかっている。

私だけじゃなく他の家臣も。

それなのに城主は頭ごなしに罵って、さらに殴る蹴るの暴力。

息子にむかって何てひどい…。

「お館様!お聞きください!若殿は…」

ハルに駆け寄った家臣が擁護しようとすると、

「黙れッッ!!」

一喝される。

信長さま 謙信さま

絶対的な君主を目の当たりにしてきて、その威圧感や何か気に障ればその場で斬られかねない緊張感を日常的に感じてきたけれど、

冷静で筋が通り、情のあるお二人と違って、この城主は全く聞く耳を持たず、誰も手におえない猛獣のような怖ろしさだった。

「お館様、逃げ帰ったのではありません」

ハルは姿勢を正すと、真っ直ぐに城主を見据えて言った。

「大将を討ち取られた敵は戦意を喪失しておりました。勝ちを取ったならば、無闇に命を奪う必要などなく、戦を長引かせるのは得策ではない。ただちに撤退し、我が兵を疲弊させず次の戦へ備えるのが最善と判断いたしました」
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