第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】
勝利の歓声・勝どきが上がり、割れんばかりのその迫力に私は震え上がってしまう。
いかつい顔の武士たちが次々に報告をする。
ハルはそれを瞬時に理解し全体の状況を把握して、その後の指示を出していた。
まだ若いのに本当に大将だったんだ…
彼らの会話は私の頭じゃ追いつかないけれど、兼続さんの指南のおかげで理解できた部分もあった。
場違い感のすごい私を家臣たちは不審そうに見つめるけど、
「迷いこんだらしい。後ほど送り届ける」
ハルの一言で、もう誰も何も言わなかった。
彼はやがて全軍引き上げを命じ、当然のように私を馬に同乗させ走り出した。
後ろからついてくるのは、まさに百戦錬磨、という感じの物々しい騎馬武者たち。
何この状況。
何で私はこんな集団の先頭にいるの…。
彼らは誰なのか?上杉軍にとって敵か味方か?
もちろん知りたいけど迂闊なことを聞いたらまたボロが出て、きっと更に怪しまれる。
送ると言ってくれているなら、余計なことを知りすぎない方がいいのかもしれない。
そんなことを考えて口をつぐんでいたら、ぐんぐんとスピードが増して振り落とされないか怖くなり、思わずハルの甲冑を掴んだ。
ハルは一瞬だけ、私をのぞき込むと
「しっかり掴まっていろ…」
と、かすれた声で小さく言った。
彼らの居城に着くころにはすっかり夜が更けていた。
それにもかわらず大勢の家来たちが出迎え、若殿と軍勢を称える。
活気に溢れた城内は、いくつもの灯りがともり、中庭には松明が置かれて煌々と明るい。
そこで私はようやく、兜を脱いだハルの顔をちゃんと見た。
面長で彫りが深く整った顔立ち。
頬や唇のラインには丸さ、幼さが残っているけど、男らしくきりりとした眉が印象的。
美少年というより、すごく若い美青年って感じ。
うまく表現できないけど。
情熱や意思の強さを秘めた目が輝いている。
なんとなく幸村っぽい。幸村に知性を加えたような。
いや、それだと幸村に知性がないみたいで失礼だよね。
「お館様!!」
家臣たちから上がったその声の方を見ると、廊下の向こうから恰幅のいい男性がやってきた。