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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】


一瞬、間があってから相手は刀を向けたままゆっくりと距離をつめてきた。

ど、どうしよう…。

私も後ろに一歩ずつ下がっていく。

「きゃっ!!」 

太ももの裏に何かが当たってバランスを崩し、後ろに座りこむように倒れると、

ズボッ!

お尻がはまった!

それは古い樽。

座りこんだときに体重でふたが壊れ、私はお尻から吸い込まれたように樽の中へと入りこんだ。

体はくの字に折れて両足が上がった状態。

やばい、どうしよう。

相当恥ずかしいし、この格好。

両手で樽の側面を押して必死に抜け出ようともがく。

「ううー!んんーっ!!んー!!」

しばらく奮闘する私、マヌケ過ぎる…。

武士は目を丸くして呆気にとられた様子で見ていたけれど、やがてゆっくりと刀を下ろした。

「……」

無言で近づいてくる。

あああどうしよう、逃げられない。

煙玉を投げる?

でも煙幕を出したところで樽にはまって逃げられないんじゃ意味ないし。

ぐるぐると必死に頭をめぐらせていたら…

武士は、めくれ上がった私の着物の裾をスッと直し、

もがいたことでむき出しになっていた膝下を隠してくれた。

……

その行動にわずかな希望を感じた私は、

「…お願いです。どうか助けてください!」

思い切って懇願してみた。

「お前は何者だ?なぜここにいる?」

この人、すごく若い?

喋った声はかすれて、まだ声変わりが終わっていないような感じ。

「…た…ただの町娘です。迷いこんでしまって…」

「迷いこんだ?こんな人里離れた場所でか?」

「……」

「それにその上質な着物、町娘には見えないが名は何と申す?」

「……」

私はどこぞの姫で、訳あって春日山城に身を寄せているということになっている。

名乗ってそれを悟られたら人質として捕まって、謙信さまたちに迷惑をかけるかも。

「…言えません」

「……」

武士の眉がピクリとひそめられる。

私バカ

町娘だって言ったんだし適当に名乗っておけばいいのに、名乗れないって相当怪しいよ。
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