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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第30章 五色の夜 春日山城編5 【信玄】


坂登り、と言ってもそれほど急ではなく食後の運動にちょうどいいくらいのもの。

足場が悪いときだけ大きな手が差し伸べられ、支えてくれた。

信玄さまはずっとニコニコ楽しそうで、すれ違う商人や旅人に挨拶して一言二言、言葉を交わしている。

春めいた陽気に包まれ、

鳥のさえずりを聞いて野花を見て、

喉が乾いたら冷たくておいしい湧き水を飲んで、

まるでハイキングみたい。

何より信玄さまの楽しそうな様子を見ていると、私も嬉しくなる。

心がほかほかと温かくなった。







「おつかれさま、ここが目的地だ」

「すごい!」

景色が一気にひらけた。

そこは見晴らし台のような場所。

春日山城や城下町、森も草原も田畑も知らない村も広く見渡せる。

その向こうにそびえる山の姿に目を奪われた。

白い雪に覆われてきれいな三角形で…まるで…

「富士山みたい…」

「だろ。ここから見る姿はまるで富士の山」

そうだ、信玄さまの故郷は甲斐。

死んだと偽り甲斐を離れ、武田家再興を狙っている。

いつのまにか信玄さまからは普段の笑顔が消えていた。

こんなにも真剣な表情は初めて。

イケメンがさらに際立っててドキッとしてしまう。

山へと向ける慈しみのこもったまなざしはどこか哀しげで、故郷への複雑な思いを感じる。

「きれいですね」

「ああ。ずっと来たかったんだ、天女と一緒に」

ときどき出る天女呼び。

これはいつまでたっても慣れなくて恥ずかしくなる。

そういえば話したいことがあると言っていたけど何だろう?

「ああ、感慨深いよ。ようやく叶ったんだよな、君との逢引」

信玄さまったら、また大げさな。

「何年ごしの願いだったんだろう」

ん?

何年ごし?

2ヶ月前に初めて会ったのに?

不思議だったけど、信玄さまの表情は依然として真剣で口を挟めない。

何だか雰囲気まで重いし…

と思ったら、いつのまにか太陽が翳って辺りは暗くなっていた。

「俺は君と…」

信玄さまが口を開いたとき、遠くの空がピカッと光る。

少し間をおいて雷鳴がとどろいた。

あんなに晴れていた空がみるみる黒い雲に覆われていき、ぽつぽつと雨も降り始め、すぐに強まっていった。
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