第29章 五色の夜 春日山城編4 【義元】R18
義元さんは自分の腰の縄をほどいてから、私の方の縄に指をかける。
あんなに固く結ばれていて、おかげで私は救われたのに、いとも簡単にスルリと解けてしまった。
何だか手品を見ているよう。
「…名無し」
顔を上げた義元さんにじっと見つめられ、甘さを含んだ声で呼ばれ、ドキッと鼓動が跳ねた。
「君を誘ってからずっと、一緒に過ごす夜に思いを馳せていたよ。どんなに素晴らしいだろうって、待ち望む時間も幸せだった」
義元さんは常に、どこか頽廃的な色気が漂う。
私は今夜、意図的にそこから目を逸らそうとしてきた。
流されてしまいそうだったから…。
だけど、今夜の月影は彼の憂いと色気を増幅させ際立たせ、とても見て見ぬふりなんてできない。
「まだ帰したくないんだ。もっと名無しを知りたい。もう少しだけ、一緒にいてくれないかな」
まるで美しい罠のよう。
最初に縄で縛られたときからずっと、義元さんに魅了され続けてる。
屋根の上で特別な景色を見るという体験とともに、気遣われて自然に触れられ、そのたびに私のタガは外れていった。
もう縄は解けているのに逃れられない。
コクンと頷くと、
「ありがとう」
義元さんは妖艶な笑みを浮かべて両手を広げ、そこに私は自ら捕らえられた。
香のかおりが漂う部屋に導かれると、義元さんは跪いて私の手を取り口づけた。
着物姿がこの上なく似合う和の美青年なのに、その動作は西洋の騎士のようで、何だか不思議な感じ。
立ち上がった彼は、
「掴まってて」
と、私の腕を自分の首に回させると、膝をすくい上げてふわりと高く横抱きした。
突然の浮遊感に、私は思わずぎゅっと義元さんに抱きつく。
そのまま運ばれ褥にそっと降ろされた。
流されてしまっていいの…?
今更、そんな戸惑いが私の胸にうずまくと、
「大丈夫…?身体がこわばってる」
心配そうに揺れる綺麗な瞳が私の様子をうかがった。
「緊張して…」
複雑な気持ちはうまく言葉にはできず、それだけ答える。
「そうだよね…」
義元さんは片腕で私を抱きしめながら、片手の指で優しく髪をすくように撫でた。