第29章 五色の夜 春日山城編4 【義元】R18
そんなことを考えていると、
「ねえ、これ食べない?」
「?」
「はい、どうぞ」
突然、差し出されたのは竹の皮に包まれたお団子。
「わあ嬉しい。でも、どこから出したんですか?魔法みたい」
「ふふ」
単純な私は高所の怖さをもう忘れていて、しがみついていた義元さんの胴から両手を離し、お団子を受け取った。
「いただきます」
ぱくりと口に入れる。
「すごくやわらかい。やさしい甘さで美味しい!」
ほおばる私を義元さんはニコニコと見守る。
「あ、義元さんは食べないんですか?」
「名無しって、いつも本当に美味しそうに食べるよね。俺は君を見てるだけで満足だよ」
私、完全に食いしん坊として認識されてる…
何だか恥ずかしくなって空を見上げると、星が一つ流れた!
「あっ!流れ星!」
実際に見るのは初めてで、嬉しくなった私は無意識に立ち上がっていた。
「きゃ…」
そうだ、ここは屋根の上。
不安定な足元に体が前のめりに傾く…
落ちかけた私は腰から縄でグンッと引き戻され、次の瞬間には義元さんの胸に受け止められていた。
「大丈夫?怖かった?」
義元さんは心配そうに私の顔をのぞき込む。
「あ…ありがとうございます」
助かった…。
心臓がバクバクして、手には汗をかいてる。
「この縄、役に立ったでしょ」
「はい…。おかげで命拾いしました」
義元さんはしばらく優しく背中をさすっていてくれ、次第に私は落ちつきを取り戻したけれど、ドキドキは収まらない。
「そろそろ降りようか」
「はい」
ゆっくりとハシゴを降りていき、あと数段というところで、
「ちょっとごめんね」
「あ…」
義元さんの腕に抱き上げられ、私の足は羽のようにふわりと廊下の床についた。
それは決して大げさな表現じゃない。
食いしん坊な私なのに、その体重が感じられないくらい、そっと降ろしてくれた。
屋根に引き上げてもらったとき、落ちそうになったときも思ったけど義元さんって見かけによらず力がある。
いや、いくら中性的な美しさがあるからって、有名な武将にむかって見かけによらずだなんて、失礼だよね。