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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第29章 五色の夜 春日山城編4 【義元】R18


「それからね、見て」

義元さんはすっと左手を伸ばし、優雅な所作で指差した。

こんな何気ない動作でさえ華があるなんて。

綺麗な指先が示していたのは、あの若木。

「そこに以前植えられてた桜の木、それは見事だったよ。春には可憐な花を咲かせ、夏になると萌える緑で枝が覆われていたんだ。秋になったら赤く染まった葉を一枚一枚落としていき、冬の寒さを耐えしのんできた」

大きな月を背景にした義元さんの横顔が憂いを帯びる。

その麗しいシルエットに目を奪われながら、紡がれていく言葉に、今は存在しない木のイメージが膨らんでいった。

「何十年もそれを繰り返してきたのに、あの強風で倒されてしまった。寿命は長いけど、永遠ではない。一夜にして失われてしまった」

義元さんの感情が流れこみ、私も切なくなる。

「だけど、新しい桜の若木が植えられてる。まだ折れそうに細くて、根も十分に張っていないけれど、すでに蕾をつけているんだよ」

よく見ると、ほっそりとした枝には小さな蕾がいくつもついていた。 

いずれも花びらがほころび始め、月明かりを反射して神秘的な薄紫色にほの光っている。

「ああ、本当ですね。もうすぐ咲きそう…!」

「そう。とても初々しいね。新しい希望。花を咲かせて、いつかは立派な大木になるよ」

季節を越え成長していく若木の情景。

義元さんに導かれて、私の心の中で伸びやかに広がっていった。

「十四日目の月と、花咲く寸前の桜。まだ完成されていない姿には無限の可能性があって、情緒もあって、魅力があって…。心に余韻が残りますね」

私の言葉に振り返った義元さんの顔が喜びに輝く。

「うん。俺が君に見せたかった美しさをわかってもらえて嬉しいよ。今日はありがとう、来てくれて」

「こちらこそありがとうございます。忘れられない景色になります」

芸術を心から愛する義元さんは、審美眼があって目利きだけど、ふとしたものからも美や魅力を見出だせるんだな。

おかげで見過ごしていた景色が唯一無二の情景になった。

一緒にいたら、世界はもっともっと美しく見えるのかもしれない。
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