強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第2章 嫉妬、そして……独占欲
優しい笑みで、しゃがんでいる。
「家にもいねぇし、電話にも出ねぇからめちゃくちゃ焦った」
中へ入って来て、私の隣に座る。
私は何も言えなくて、カバンを手に取るけど、手首が優しく掴まれた。
「言い訳もさせてくんねーの?」
何で彼がそんな悲しい顔をするんだろう。これが彼の手なんだったら、嫌いになってしまいそうだ。
けど、彼の目には嘘はない気がして。それでも、やっぱりさっきの光景は頭にこびりついて、私の胸を再び締め付けた。
「それを聞いたら……もう私に関わらないでくれる?」
「……は? んなもん、無理に決まってんじゃん」
少しムッとした万次郎が、私の手首を掴んだまま続ける。
「お前が離れたいって思ってたって、俺はお前を離すつもりはねぇよ」
「何で? 私より可愛い子がいるんだから、別に私がいなくてもいいでしょ」
こんな事言いたいわけじゃないのに、口から出る言葉は明らかな嫌味で。
今の自分は、本当に最低だ。
視界が滲み始めた時、私は押し倒された。
私の上で、万次郎が無表情で口を開く。
「は俺のだ。絶対、逃がさない……」
「やっ……んンっ!」
両手首を固定され、唇を乱暴に塞がれた。
目尻から、涙がボロボロ流れて止まらない。
私のものにはならないのに、私には“俺の”だと言う。
彼の甘美な言葉の鎖が、私を絡め取っていく。
「っ、好きっ、っ、っ……」
何度も唇を重ねながら、万次郎の悲しそうな顔がぼやけて見える。
「……俺から、離れて行かないで……」
胸に顔を埋め、しがみつくみたいにキツく抱きしめられる。
これでは、まるで私が捨てる側みたいじゃないか。
「……どうして私なの? さっきの人がいるのに……」
「三ツ谷に聞いた。抱きつかれてたの、見たんだよな。他の奴等にも、誤解させんなって怒られた」
何がどう誤解なんだろう。
私は妙に不安そうな顔を上げて、こちらを上目遣いに見る万次郎の言葉を待った。
「さっきの、エマって名前で、妹」
異母兄妹らしく、凄く仲がよくて、彼女は龍宮寺君が好きだと教えられてしまった。
勝手に誤解して、勝手にショックを受けて、疑って。