強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第2章 嫉妬、そして……独占欲
早く慣れないとと考える私の部屋に、ノックの音が響く。
「ねーちゃん、ごはーん」
扉が開いて、昴流が顔を出す。
「どうしたの?」
返事をした私に、何か言いたそうな顔を向ける昴流。
「……万次郎、また来る?」
モジモジしながら言う昴流の頭を撫で、私は笑う。
「明日、聞いておくね」
「うんっ!」
心底嬉しそうな顔で頷き、昴流は階段を降りて行った。
その小さな後ろ姿を、私は微笑ましく見つめていた。
久しぶりに四人でご飯を食べる食卓では、父に弟達が息付く暇もなく話し掛け、報告会のような状態である。
父は二人の話を、優しい笑顔で楽しそうに聞いていた。
お風呂から上がると、弟達が眠そうに部屋へ向かう途中で、二人とおやすみの挨拶を交わした。
洗い物を済ませた父が、飲み物を持ってソファーにいる私の隣に座る。
「いやぁー、二人共毎日楽しそうにしていて、よかったよ。寂しい思いをさせてしまっているから、心配だったんだ」
「久しぶりにお父さんと一緒に過ごせて、嬉しくてはしゃいでたもんね」
「にも迷惑かけて、本当に申し訳ないと思ってるよ」
「大丈夫だよ。二人共いい子にしてるし、私も特にしんどかったり、辛い思いしてないから、気にしないで」
父の手が頭に置かれる。
「そうか、ありがとう。困った事があれば、すぐに言うんだよ、いいね?」
父の優しい笑顔と声、言葉に少し涙腺が緩むのを隠すように、笑って見せた。
「あぁ、それと、急なんだが、明日急遽姉さんが帰国するらしくて、昴流達の事は姉さんが見てくれるらしいから、たまには友達とゆっくりしておいで」
そう言われて、一番に思い浮かんだのはもちろん彼だ。
翌日の放課後の事、帰る準備をしていると、騒がしい教室が更にザワついた。
何事かとそちらを見ると、こちらに向かって歩いてくる人物に視線が集まる。
「佐野く……」
「違う」
「あ……ま、万次郎……」
やっぱり慣れない。
「これからちゃんと呼ばないと、誰の前であってもキスな」
「うぅ……」
目の前まで近づいた不満そうな顔が、ニッと明るくなる。
何が何でも呼ぶ事に慣れないといけないようだ。
そして、それよりも今問題なのは、みんなから刺さる好奇心の視線だ。