強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第2章 嫉妬、そして……独占欲
私はどうしたらいいんだろう。
「あ、あの……佐野君、プリント返して欲しいんだけど……」
「どこまで行くの? 俺も着いてっちゃ駄目?」
何とも言えない顔で見つめられ、私はクラスメイトの彼を見ると、先程よりもっと困った顔をしてこちらを見ている。
「彼、さんに用事あるみたいだし、俺が全部持ってくよ」
「だ、駄目だよっ! そんなわけにはいかないよ」
「お前いい奴だなっ! やってくれるって言ってるし、行こうぜ」
さすがにこれは言わないと無理だ。恥ずかしいなんて言っていられない。
私は佐野君を真っ直ぐ見る。
「ごめんね佐野君、私一緒には行けない。頼まれた事を人に押し付けて途中で投げ出すなんて、私には出来ない」
プリントを佐野君の手から返してもらい、私は佐野君に背を向けて歩き出した。
「さん、よかったの? あれって、最強で有名な佐野万次郎だよね?」
「多分、大丈夫」
少し冷たかったかなと感じながら、とりあえず後で謝ろうと思いながら、目的地まで急いだ。
昼休み、佐野君の教室まで行くと、龍宮寺君しかいなくて、心当たりを教えてもらい、そこへ向かう。
龍宮寺君の話では、佐野君は今凄く落ち込んでいるらしい。
やっぱり、私の態度はよくなかったようだ。
廊下を歩く足の動きが早くなる。
「……いないのかな……」
屋上に辿り着くと、あまりガラがいいとは言いづらい、数人の男子達がまばらにいた。
その人達は、錆びた扉の音に反応してか、一斉にこちらを見る。
「何何? 誰か探してんの?」
ワラワラと近づいて来た男子達に囲まれ、手首を掴まれたと思ったら、あっという間に引っ張られた。
ニコニコと笑っているのに、純粋に笑うそれではない笑いに、背筋がゾワリとする。
「そんな奴放っといてさぁ、俺等と遊ぼうよ」
佐野君達がいい人だから、他の人達がそうだとは限らないのに、迂闊だった。
どうしよう。そう思った瞬間、背後から何か音がした。
「汚ぇ手で触ってんじゃねぇよ」
私の手首を掴んでいた手が離れ、代わりに佐野君の手がその手を捻じる。
「で? 誰から死にてぇ?」
その佐野君の顔は、私の知らない顔で、これが“最強の男”である彼の本当の姿なのだろう。