第8章 一夜限りの夢の宴
「貴様にやる!!」
蒼音の目の前にズズい、と手渡す大きなうさぎのぬいぐるみ。龍水の貰ったあのうさぎと違い、海賊服も着ていないし剣も構えていない。それでも龍水が《欲しかった》のだ。あの日の格好良い蒼音の様に、一番難しいのを撃って、一番格好良く贈りたかった。ただそれだけだ。
「龍水、君があの一番難しい的を撃ったんだ。何故一等を取れたのに、自分の欲しい物を……」
不思議そうに蒼音が躊躇する。かつて自分が断りかけた時のように。
「蒼音。貴様、3700年前にゲーセンに行ったのを覚えてるか?」
「覚えてるよ、龍水がやたら負けてたやつ」
「そちらでは無い!!」
カッ!!と思い出して欲しく無い方を述べる蒼音に一喝する龍水。いつも堂々とする彼らしくなく、視線を外しながら告げる。
「その後だ。貴様に、貰っただろう?無粋な事を言わせるな、蒼音。貴様の為に取ったのだ。これは……俺の、心だ」
その言葉に、蒼音がまじまじとうさぎを見詰めた。あの頃の、一緒に過ごした短くも楽しい日々。
「——《なら、有難く頂戴しよう》」
蒼音が、思い出したよ、と龍水の台詞を真似て遠回しに伝えた。ぬいぐるみを抱き締める可愛らしい蒼音に、龍水は笑った。
「そうだ、せっかくだから帽子くらいどうかな」
「!?な、何をする蒼音!?」
蒼音が、自分の被っていた船長帽を取った。丁度スポンと帽子のはまったうさぎを見て、ピッタリじゃないか、良かったと満足気に微笑んだ。龍水と蒼音の努力が合わさって出来た、船長うさぎ。
「——ッッ!!き、貴様!!貴様ーーー!!
き……っ!!貴様ーーーーー!!?!!」
「龍水?語彙力。何処に落としたんだ…?まさか君が自分で撃ち落としたのは語彙力だったのか……??」
あまりにもやる事が可愛らし過ぎる蒼音に、動揺して声が出せずに言葉を無くす龍水。それが分かってない蒼音のツッコミ。ギャラリー達が二人の見事なすれ違いっぷりに笑い声をあげた。
「ッ!!わ、笑うな貴様ら!?行くぞ蒼音!」
蒼音の手を自然に取ってズンズン歩く龍水。