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二人の航海者

第8章 一夜限りの夢の宴


「蒼音!次はどうする!何処に行く!?」
「龍水……君は小学生の子供か?全く。じゃあアレでもやろうか」
夏祭りという俗なイベントが初めてでしかも蒼音が一緒となってもうテンションMAXの龍水。苦笑いする蒼音が指差す先には金魚すくいの屋台。

「フゥン?金魚すくい、か。俺はやった事がないな!!マグロなら掬ったぞ!?」
「いや普通はそっちが無いから。あとマグロは掬う物では無いぞ。釣る物だ」
ドラゴを払い、ポイを手に持つ。

「蒼音、貴様はやった事があるのか?」
雑談しつつも、集中する蒼音に龍水が尋ねた。
「一応ね。龍水程派手にお金持ちやってないし。こういう普通の人の楽しみを知るのも勉強、って連れてこられたかな」
そう言いつつ、ポイを斜めに傾け水の抵抗を減らし、一気に水に浸す蒼音。

「まあやった事ないなら、コツも分からないだろう。——《よく見たまえ》」
「————ッッ!!」
龍水の前で手本を見せる蒼音の姿と台詞に、かつて小学生の頃ゲーセンで船長帽を被った海賊うさぎのぬいぐるみをクレーンゲームで取った蒼音の姿が重なった。壁際の水面近くに自身のテリトリーを作り、そこにポイを潜め金魚が来るのを待つ。集中する蒼音の横顔に、龍水が熱の篭った視線を送った。

あの日。蒼音がくれたぬいぐるみは、宝物になった。思えば、初めて蒼音からプレゼントされた三百円で取れたあのぬいぐるみの方が、高級時計やブランド品なんかより余程大事で価値があった。

自身が世界を周る間、うさぎは一匹でずっと龍水の部屋で待ち続けた。日本に帰って来た時は、真っ先にうさぎを抱き締めた。ただいま、蒼音と。蒼音と会えない間も二人を繋いでいたあのうさぎは……もう居ない。

感傷に浸る龍水の横で、蒼音のポイが動く。虎視眈々と金魚を狙っていた蒼音が金魚を頭からすくい、紙の上に乗った後も斜めに引き上げ水を切ると縁に移動させた。
「ほいっ」
金魚をお椀に入れる。赤い金魚が、蒼音の小さなお椀の中で泳いだ。
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