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二人の航海者

第8章 一夜限りの夢の宴


「龍水君は、明日何着るの?」
「俺か?俺はこの船長帽だ」
和やかに会話する二人の声。蒼音は目を閉じて、静かに耳を傾ける。

「確かに蒼音の事は大事だがな。何も無かった新世界の俺を、この船長帽が定義付けた。今の俺はただの一介の船長という事だ」

だから船長帽を作った杠への礼でもある、と言う龍水に蒼音は微笑んだ。自分も仕事があるだろうに。全く……。だが龍水からは衣装の注文は入っていない。頑張ってるのに、明日のパーティーで新しい物を着ないのは残念だ。以前デパート千空が出来た時は、大量購入しては見せてきたのに。蒼音は、ひとつの妙案を思い付いた。少し恥ずかしいが——とびきりの、龍水にかける魔法を。

******
「よし、これでラスト……!」
チュンチュンと鳥のさえずりが響く中。ギリギリ間に合う、という所で杠が最後の服に取り掛かった。

「私もラストスパートだよ。龍水君はどうだ?」
「ああ、俺もこれで終わりだ。……おい、蒼音。貴様の縫ってる服、大分凝っているな?」
覗き見しようとする龍水だが、蒼音が阻止した。

「こら龍水君。何サボりかけてるんだ?いいからさっさと手を動かしたまえ」
「蒼音ちゃんの服かな?確か蒼音ちゃんは注文して無かったもんね」
何となく中身を察した杠が助け舟を出した。ありがとう、とこっそり蒼音がウインクする中、龍水は仕方なく席に戻った。

「フゥン?蒼音の服なら仕方が無い。本当は俺が縫ってやりたい所だが、今日のパーティーで着ているのを楽しみにしているぞ」
そう言って作業に戻る龍水。にやり、と。してやったりな笑顔を女子二人で浮かべた。

そして迎えた、パーティー当日の朝。
全力を出し切った科学王国手芸力トップ三人が仮眠用ベッドで全員もれなく倒れ込んで眠っていた。パーティーは旧司帝国跡地の広場で、夕方前からだ。それでも日の高いうちから開催を楽しみにする参加者達がデパート千空に殺到。その間、三人はベッドで死んだように眠った。……蒼音のベッドの下に【危険物】と赤いインクで書かれた謎のブツが複数あったが、皆でスルーした。
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