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二人の航海者

第6章 想いは巡り会う


旧世界の蒼音の恋愛曲には無かったタイプの曲だ。最後の夏の日の花に巡るのは、主人公の記憶の中だけの話なのか。それとも、本当に会えたのか。いずれにしても、主人公は幸せそうで……幸せとも不幸せとも言いきれないラスト、絶妙な匙加減の歌。龍水はぼうっとしていたが、歌手の『Aonn』が瞼を開けて微笑んだ。

「新曲の『花は巡る』でした」
ドレスの裾をお姫様の様に両手で掴んで礼をした。その姿で我に返った龍水が、ハッと意識を戻した。

「蒼音。今の、曲は……」
「……?龍水?」
珍しく、蒼音が龍水を呼び捨てにする。
ふわりとドレスが舞い上がり——龍水だけの姫君が、目の前に膝をついて座り込んだ。彼の頬をつたう、一筋の涙を手で掬う。

「……泣いてる」
心配そうに見る蒼音を、龍水はまじまじと見ていた。何か、聞きたい事があった筈だ。蒼音に。はくはく、と龍水の口が動いたが。いつもの蒼音のライブの後の様に。感想を聞かれる前に『はっはーーー!!良かったぞ蒼音!!』と素直に褒め称える事が出来なかった。疑問が脳内を駆け巡る。

【この曲の分類は?恋愛の曲なのか】
【恋愛関係なく、大事な人の事を想う曲か】
【何故この曲はバッドエンドじゃないんだ】
【旧世界の頃の様に他のアーティストが歌詞を書いたもので、未公開の楽曲なのか】
【それとも未公開曲の中でも蒼音が3700年眠っていた間に脳内で作られた歌なのか】
【主人公は、結局ラストで大事な花に会えたのか】

【一体、この曲は誰の事を想って作ったんだ?蒼音】
ぽろぽろ、と。涙を零す龍水。蒼音が思わず、包み込むように優しく龍水を抱き締めた。

「……泣いていいよ、龍水」
壊れ物を扱うかのように優しく抱き締める。
突然の抱擁に、龍水の涙が止まった。抱き締められて、いる。あの蒼音に。どうしたって届かない、高嶺の花の蒼音。どんな褒め言葉をかけても、プレゼントをしても喜ばない。欲しい、と。世界一の美女だ、と。そう言っても手に入らない、彼女の抱擁。

これは追加オプションには……無い、筈だ。蒼音は易々とファンに身体を触らせないし、アイドル系の歌い手では無いので握手会とかもしない。
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