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二人の航海者

第6章 想いは巡り会う


《いつだって、そこで 咲き誇り続ける
いつだって、僕ら 何処だって行ける
いつだって、僕ら 笑いまた歩く
そうやって、僕が 君にまたずっと
水をあげよう また歩く為に》

先程のシャウトよりも冷静に、淡々と歌う。盛り上がりこそ無いがサビだと分かる。想いを連ねる蒼音。レコードのBGMは、同じ歌詞を歌う蒼音の声を流した。その小さな声が、目の前の蒼音の声と重なる。ドラムの様に叩かれた最大音量の打楽器。この原始のストーンワールドだからこそ映える、現代の機材が無くても充分に雰囲気の伝わる唄。

「不思議な、曲だな」
龍水がぽつりと零した。悲劇の様で居て、悲劇では無い。花は歌の主人公の記憶の中で咲き誇る。枯れた後も。今までの旧世界の曲も良かったが、龍水はいちばんこの曲に聴き入っていた。

《さよう…なら、 は言、わない
また、会おう……だけ、叫ぶ——》
蒼音がまた以前の様に枯れそうな声でシャウトして、またサビへとまた歌は返り咲く。

《いつだって、僕ら 何処だって行けた
出逢った日から、一緒に居たよ
振り返ればそこで 貴方が笑う
だからまた僕は、足を踏み出すの

独りで歩く いつか還ると
花はまた散って いつかまた帰る
僕はそれを また
『永遠』と呼んで また
そしてまた巡る 季節は巡る》

曲の終わりまで、サビの音調が繰り返される。淡々と同じテンポと同じような高低差の音で歌うのに、それが何故か詰まらないものに聞こえなかった。そこまでサビの音調を繰り返し、全てのレコードが止まる。

彼女の声だけが、取り残され——、サビと同じ音調と。これまでの憂いを帯びた微笑みが。蒼音が……向日葵の様に笑い、咲き誇る。

《そして、夏の日の
——君に また巡る》

終わりだ、と。曲の終わりを、それだけで悟った。不思議な曲だ。龍水はそう思う間に歌いながら軽く添えるようにされていた身振り手振りが消え。蒼音は曲が始まる前の様に、両腕を祈る様に組んだ。花に会う前の自分の様に。

ただ、初めとは違い。今度は向日葵の様なキラキラと太陽を浴びて輝く明るい笑顔だった。記憶の中にしかない状態になった『太陽の花』である大事な人とまた会えると信じて人生を歩んで来た様な。季節が巡るなら、散った花も愛しい人にもまた会えると云う、最後に仄かな希望を残す——
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