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二人の航海者

第6章 想いは巡り会う


彼女は傍に隠してあった、布の目隠しで覆われたそれを出した。何の為に持ってきていたのか分からない背中に背負った荷物に入っていた物。

黒布からは、レコードと再生機器の二つセットが現れた。蒼音がそのうち一つだけぜんまいを巻いて、レコードが流れる。瞼を閉じて、両手を祈るように組むと、静かにひとつの物語を……語りかける様に唄う。チケットの存在に関係なく。初めから『たった一人』の為に作った歌を。

《色のない世界 微睡む中で
ある日見つけた 太陽の花の 揺れるその姿
僕は一目見て やがて微笑んだ 大事な色へ 大事な花へ

僕はやがて立ち、歩き始めた
君にまた巡る 君の元へゆく
僕はまた歩く その日からずっと
世界に一つ 僕だけの花へ》

「……………ッッツ!?!?」
龍水が息を飲む。歌詞からして恐らく恋愛がテーマの曲だ。

蒼音は何故かは分からないが、恋愛の曲は他のアーティストに頼んで歌うことが多い。自分で歌う時は全て、……悲しい、終わり方をするのだ。悲劇で終わるだろう曲だが、それを感じさせない微笑をうかべ蒼音は歌う。

ただひとりの『太陽』と自分が呼ぶ人間への、愛を。レコードからは微かに打楽器の音。この世界でも作れる様に、岩等を叩いたのだろう軽くテンポを歌に合わせて刻む様なものだが、それだけで曲の静かな語りかける雰囲気を増してゆく。

《やがて時が経ち 花は萎れゆく
その定めを見つめ ああ運命と識る
それでも待つと 花はまた笑う
初めのように また笑う》

静かな切々とした曲でその透き通る硝子の様な声が優しく語る。愛した花が、萎れ枯れるからこそ、いずれまた咲いて会えると一筋の希望を示し。

《咲いた…の。記憶で
咲いた、の。花が————!!!》

サビ手前。『咲いた』歌詞とは裏腹に、今にも枯れそうな声で瞼を閉じて蒼音が静かに重くシャウトして曲が盛り上がる。打楽器の音が止み、蒼音の声が強調された。サビ手前の最後の歌詞『花が、』と叫びながら、蒼音が再生していなかったもう一個の方のレコードを目を伏せてクルクルとゼンマイを回す。レコードが、二つ同時に動く。
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