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二人の航海者

第6章 想いは巡り会う


サビ部分で、夜闇の様な黒いマントをバッ、と高く舞い上がる様に脱ぐ。そのまま勢いよくしゃがんだ。その視線は龍水のみに注がれていた。マントの下には、隠しオプションの特注品があった。普段はハイネックのワンピースとポンチョで隠れているデコルテまで見えるドレス。デコルテ部分には何も飾りが無いようでいて、『あった』。

鎖骨の下あたりに左右対称に彼女のヒビが刻まれていたのだ。中心に四角いトランプのダイヤの様な紋章。それらをネックレスの紐の様に、ザシュッと両肩に向けてアルファベットのZの様なヒビが刻まれている。紐の様な模様二本の端っこは、中央のダイヤでクロスしていた。

ドレスは深い蒼に染色されており、彼女の白銀の髪によく映える。スリットが軽く両方の腰にあり、白いリボンがそれらの端を纏めている。七分丈のフリルの付いた袖から伸びる腕が歌に合わせて踊る。 彼女に似合いのお姫様の様な美しいヒビに、それを映えさせる様なドレス。雪のように何処までも白く抜ける様な手が、月光を照らし輝く。全てが計算された、プロの仕事だ。

————美しい…………!!!!
龍水は思わず彼女が欲しい、と手を伸ばしかけたが、まだ駄目だ。まだ……歌を聞きたい。

二曲目『Braves』は彼女自身の曲。先程は透き通る透明で壊れそうでいて伸びやかな声が、今度は力強い叱咤激励する刃に変わる。実は龍水が彼女の曲の中で最も好きな曲だ。

どんな困難にあったって  どんな荒波に揉まれたって 負ける事は無い それだけは無い
世界に後ろ指を刺されても 行こう
世界を敵に 私と共に

行こう その先へ
誰も知らない僕らの世界
誰も知らない新世界へ
世界は変える為にある————!!

あまり長い丈では無いとはいえ、ドレスを華麗に翻し踊る。彼女は歌もダンスも一級品だ。至近距離でもクルクルと曲に合わせ、ドレスの舞い方や指先まで気を遣った演出は、楽器が無くてもこのストーンワールドでその光を失わない。二曲目が終わり、ラスト。

ここだけは彼女に任せているのだ、何が来るのか。龍水がワクワクしながら見ていると、蒼音がそれまでの皆の勝利の女神の様な勇ましい姿から表情が一転。普段の彼女の美貌に最も似合う、憂いを帯びた笑顔と、寂しげながらあたたかさも感じる眼差しが、龍水の瞳に映し出される。『護りたい』と。そう思わず思ってしまうような、儚き花。
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