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二人の航海者

第6章 想いは巡り会う


どこかあたたかい眼差しを向ける蒼音。成長し、よりお姫様の様に可憐で綺麗になったせいか。笑顔がなかなか目に毒である。特に龍水には。しかも、その包み込むような愛情すら感じられる様な微笑みが本物なのか分からない。

蒼音は昔から演技が上手すぎて、いつも自分の想いを伝えても躱す。本音すら濁す。だが、昔からこの妙に優しい表情を時たまにするのは事実だ。意図してやるのか分からないが、この微笑みを見ると余計に龍水の胸の奥が疼く。

とにかく彼女が【欲しく】なるのだ。自分が欲しいのはこの笑顔なのだろうか。それとも……この笑顔を生み出す本体の、元許嫁の——蒼音の《愛》が欲しいのだろうか。

他人の感情までは操れない。お金でも買えない。演技の出来る蒼音ならこれくらい出来ても違和感は無いが……。龍水が唸っていると、先をゆく蒼音の足が止まった。そこには湖面にゆらゆらと満月の光が映る、煌びやかな湖があった。湖を一望出来る開けた場所で背負っていた荷物を置いてひと息ついた。準備するから後ろ向いて、と言われて龍水が背中を向ける。

「リクエストは、リリアン・ワインバーグの『One Small Step』と、私の『Braves』、ラストが《未公開新曲なんでもOK》か。龍水君、準備出来たからこっち見ていいよ。リリアンの曲を入れる辺り流石だね。しかも私がいちばん好きなやつ。さては私に気を遣ったな?」

ニヤリと蒼音が笑う。なんの事だか知らん!とフイッ、と龍水がそっぽを向くのをくすくすと楽しそうに見ている。

「さて、スイッチ切り替えるか。龍水君はライブ特等席来てくれてたからまあ近くで見慣れてるだろうけど、この至近距離は無かったね」

瞼を閉じてフーッと蒼音が息を吐き……。再び開いた時には、それまでと別人の様に顔つきも雰囲気も違っていた。その場全てをも飲み込む様な気迫に、思わず龍水の心臓も高鳴る。

彼女のライブならいつもVIP席で見ているが、こんな風にスイッチが切り替わる所は、見た事が無い。白魚のような白く透き通った手を天高く上げ、敬愛してやまないリリアン・ワインバーグの曲を歌い——
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