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二人の航海者

第5章 秘密の会


「えっ…………」
あまりにも壮大な恋愛に二人は唖然とした。
正直、蒼音は龍水とはタイプがまるきり違う。龍水は自分に正直で真っ直ぐ、嘘は言わないし、気持ちを抑えずとにかく欲に忠実。

対して蒼音は、自分を抑えて他人の幸福の為に歌を歌ったり料理を作る。軍師として戦局を有利に進める為には自身の身体すら張る。あまり自分の為だけにあれがしたい、これが欲しいという欲望が無い……ある種の『無欲』なのだ。喩えるならば眩しく輝く太陽と、静かに皆を見守る月の様な相容れぬ二人なのだ。故に、惹かれ合うのかもしれないが。

「確認するけど、蒼音ちゃんがずーっと3700年間も起きて自力で復活出来たのって」
ゲンが汗だくだ。傍からすれば、蒼音の本音はちょっと見るのが怖いビックリ箱の中身を見る気分である。

「あの阿呆のせいだよ……不本意ながら。いつか会えるかも、って思ってたからね。頭脳での忍耐勝負なぞ、私が勝つに決まってる。まあでも、どれだけ美女刺客を送りこんでも私にばっかり執着するからびっくりしたよ」
クッキーをまじまじと見る蒼音。不格好ではあるが、この世界では最もマトモな彼女が発明し作った料理である。

「あはは、まさかの両想いなんだね?でも普通に言わないのも、今日の取引も。やっぱり蒼音なりに思う所があるの?」
羽京も少し驚きつつ聞く。

「龍水君は『皆美女』って言うよね。台詞だけなら確かに最初は言われて嬉しいかもだけど、私みたいな慎重派からすれば逆効果なんだよね。皆美女なら、たったひとりの【特別】では無い。付き合ってた女の人も、みんな彼らから近付いて、一方的に好きになっては同じ理由で別れたんだ。気持ちは分かるから、彼女たちを責めた事は無いよ」

「そっか。それは確かに……怖いね」
「普段から『欲しい』って気軽に言っちゃうならそうなるよね~」
羽京とゲンが理解した。蒼音は蒼音で、龍水に惹かれてはいるが、受け入れた先が怖いのだ。

だからああして天邪鬼を演じているのだろう。それなら付き合う事こそ無いが——変に想いを拗らせたりせずに、大好きな龍水の視線を独り占め出来る。【唯一心を手に入れられない女性】として。
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