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二人の航海者

第3章 心のフィルム


フランソワもそれに倣うが、龍水はガン無視である。
「龍水君、君も倣え。郷に入っては郷に従え、だ。ここは私のフロアだぞ?出世払いで君が肩代わりしてるとはいえ、主は私だ。私に倣え」
そう言うと、龍水は蒼音が言うならと手を合わせた。

「いただきます」
皆で食卓を囲みご飯を食べる。龍水はガツガツ食べる。礼儀作法ガン無視で。作る側としては、とても美味しそうにしてくれるので嬉しいが。横で食べる彼が味噌汁を啜り、ん?と呟く。何かあったのだろうか?

「蒼音。これは完全に貴様だけで作ったな?」
「そうだけど。ウチの秘伝の味噌使った、伝統の味ってやつだね」そう言いつつおひたしを食べる。

「貴様の家に代々伝わる味か。実に美味だ!」
蒼音の解説を聞いた龍水が一層嬉しそうに飲む。まあ気に入ったのならいいか、と自分の食事に戻る蒼音達の姿を、フランソワがあたたかい眼差しで見ている。

「フランソワさん?」
「蒼音様のご家系に代々伝わる味ですので、蒼音様にしか作れないのですね」

つまり、龍水からすればうちの家の者になった様に感じられた、という事か。なんと言うか……嫁バカというか許嫁バカである。

「確かにそうですね。本来は母が作る所を、私がレシピを元に再現してるので、完全な味かは分かりません。父に確認して貰ってはいますが」
そこまで淡々と述べると、龍水の手が止まる。

「蒼音。貴様の母親はもう居ないのか」
「うん、幼少期に病気でね。私と違って物腰穏やからしい。写真も見たけど、確かに如何にも深窓の令嬢って感じの人」
他人の様に話す蒼音に違和感を感じた龍水が、訝しげに尋ねる。

「蒼音との思い出も無いのか」
「強いて言うなら、名付け親なのと……古い記憶かな。病室でずっと外を眺めてるのを、父さんに抱えられつつ見てた。それぐらいか」
少し真剣な声音で龍水が続け様に尋ねた。

「貴様の見た目。明らかに異国の血が混ざっているが、母親の方がそうか?」
「そうだよ。父さんが留学先で出逢った元貴族のお金持ちのお嬢様らしいけど、あまり深くは知らないね。ただ見た目は私と全くと言って良い程に同じだよ」
蒼音は手元の味噌汁を飲み干した。我が家の伝統。母親が継ぎ、今も作るはずの味噌汁は——娘の手元にある。
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